脇差
銘 近江守高木住助直 (良業物)
Wakizashi
Omi no kami Takagi ju SUKENAO
(Yoki Wazamono)

摂津国 延宝三年頃 約三百五十年前

刃長 一尺七寸八分
反り 五分
元幅 一寸六厘
先幅 七分七厘
重ね 二分四厘
彫刻 表裏 棒樋丸止・添樋
金着二重ハバキ 白鞘入

昭和二十六年愛知県登録

特別保存刀剣鑑定書
百万円(消費税込)

Settsu province
Enpo era(A.D.1673-1680, early Edo period)
About 350 years ago

Hacho(Edge length) 53.9cm
Sori(Curvature) approx. 1.52cm
Moto-haba(Width at Ha-machi) approx. 3.21cm
Saki-haba(Width at Kissaki) approx. 2.33cm
Kasane (Thickness) approx. 0.73cm
Engraving:
 "Bo-hi" maru-dome and "Soe-hi"
 on the both sides

Gold foil double Habaki / Shirasaya

Tokubetsu-Hozon by NBTHK
Price 1,000,000 JPY

 助直は近江国野洲郡高木(注①)の出身で、大坂に出て助廣初代に師事した。兄弟子に華麗な濤瀾乱刃で一世風靡した助廣二代があり、その鍛刀を目の当たりにした助直は刺激を受けて才能を開花させ、自らも濤瀾乱刃や大互の目乱の刃文を得意とし、助廣を新刀第一と評した鎌田魚妙をして「津田助廣(二代)に劣らざる名人」(『新刀辨疑』巻四)と言わしめている。
 表題の脇差は、越前守助廣の塁を磨すような濤瀾乱風大互の目乱が心地良い作。身幅広く重ね厚く、細樋を伴った棒樋の樋際の線がきりりと立ち、腰元から反りが高く付いて中鋒に造り込まれた洗練味のある好姿は助直の優れた感性を明示している。小板目鍛えの地鉄は鉄色晴々として鉄質如何にも優れ、細かな地景が入って肌起ち、豊麗な地沸で覆われた肌は断ち割った直後の梨の実の断面のごとき潤い感に満ちている。長めの焼出しから始まる刃文は得意の大互の目乱刃で山高く谷深く、処々二つ連れ、波飛沫を想わせる玉焼が配されて押し寄せる波濤を想わせ、新雪のような沸が深く付いて刃縁も明るく(注②)、沸足が太く入り、細かな金線、砂流しが掛かり、微細な沸が充満した刃中は蒼みを帯びて冴える。帽子は横手で強く焼き込み、焼深く掃き掛けて小丸に返る。助廣と同じ香包鑢が掛けられた茎に、神妙に刻された銘(注③)の形から、延宝三年三十七才(注④)頃の作とみられる。助直の充実ぶりが示された優品である。

注①…『新刀辨疑』の説。これに対し江州高木を蒲生郡高木とする説がある(岡田孝夫『江州刀工の研究』)。

注②…『越前守助廣大鑑』に「匂口が深く柔らかく、小沸がよくついて冴えたものを最も賞美」とある。

注③…直の下に「作」或いは「作之」とあったもので、乍の第一画が遺されている。因みに「作之」とある例としては第十九回重要刀剣の刀がある。

注④…「元禄己巳年五十一歳と云」(『古今鍛冶備考』巻四)によれば寛永十六年生まれ。