脇差
銘 和州住源貞弘造之
昭和癸丑年仲春為相原氏
Wakizashi
Washu ju Minamoto no SADAHIRO kore wo tsukuru
Showa Muzunoto Ushi no toshi chushun
Aihara shi no tame

奈良県 昭和四十八年 喜多貞弘 五十一歳作

刃長 一尺二寸二分一厘
反り 一分九厘
元幅 一寸一分七厘
先幅 六分八厘
重ね 二分一厘
彫刻 表 爪付素剣
   裏 瑞雲・梵字・護摩箸
金着二重ハバキ 白鞘入

昭和四十八年奈良県登録

五十五万円(消費税込)

Kita SADAHIRO
 Nara prefecture
 Forged in 1973, Work at his 51 years old

Hacho(Edge length) 37cm
Sori(Curvature)0.6cm
Moto-haba(Width at Ha-machi)3.55cm
Kasane (Thickness) approx. 0.65cm
Engraving:
 "Tsume-tsuki Suken" on the right face,
  "Zuiun,Bonji and Gomabashi"
  on the back face

Gold foil double Habaki / Shirasaya

Price 550,000 JPY

 幕末から明治の月山雲龍子貞一(帝室技芸員)、貞勝、貞一(人間国宝)などの名工を輩出した月山家の勇名は、当主の力量も勿論のことながら、優れた門人に拠るところも大きい。昭和十四年、月山貞勝に入門した貞弘刀匠もその一人。備前伝、山城伝、相州伝を得意としながらも、専ら師貞勝、その子貞一の鍛刀に協力していたためであろう、自身作は極めて尠ない。
 この脇差は、貞弘刀匠が得意とした相州貞宗写しの傑作(注①)。身幅が極めて広く、重ねも厚く、両区が深く生ぶ刃が残されている健全無比の姿。深々と掻かれた爪付きの棒樋、瑞雲、梵字、護摩箸も彫際の線が強く起って刀身に映えた「彫の月山」らしい出来栄え。地鉄はよく詰んだ板目肌に地景が脈々と入り、豊麗に湧き立った地沸で地肌が潤い、飛焼状の湯走りが掛かり、鉄色青く冴えて見るからに精強な肌合い。刃文は浅い湾れに互の目、中程に焼の深い互の目を配して力強く変化し、刃縁に銀砂のような沸が厚く付いて光を強く反射し、金線、砂流しが断続的に掛かり、刃中には細かな沸の粒子が充満して蒼く冴える。帽子は浅く乱れ込み、強く掃き掛けて浅く返る。舟底形の茎の仕立ては月山一門らしく極めて丁寧で製作時そのままに白銀色に輝き、銘字が神妙に刻されている。月山門の寡作の鬼才が特別の注文で精鍛した本領発揮の貴重な遺例である。

注…当時、相州伝に関しては日本一であったとは貞弘師と交流のあった柳村仙壽先生の談。因みに柳村先生は包知銘(貞弘別銘)の昭和五十年二月吉日紀の刀に倶利迦羅・三鈷柄剣の彫刻を施し、新作名刀展で努力賞を受賞し、刀身彫刻界に鮮烈なデビューを飾った(『銀座情報』二百三十九号掲載)。