平成二十六年福島県登録
特別保存刀剣鑑定書
Hacho (Edge length) 76㎝
Sori (Curvature) approx. 1.88㎝
Motohaba (Width at Ha-machi) approx. 3.24㎝
Sakihaba(Width at Kissaki) approx.2.12㎝
Kasane (Thickenss) 0.73㎝
Gold foil double Habaki / Shirasaya
Kuro urushi nuri saya, Tensho koshirae
Whole length: approx. 112.1cm
Hilt length: approx. 24.3cm
嘉永六年六月、黒船に泰平の眠りを覚まされた幕府は、江戸湾岸の防備を固めるべく諸大名を配置した。品川第二台場の守護を拝命した会津藩主松平容保は、芝金杉浜町に金杉陣屋(注①)を設営し、藩工角元興を呼び寄せ、さらに元興の師で幕府御用を勤めた石堂運壽是一(これかず)を(注②)招聘し、両工の合作刀(注③)を打たせて攘夷への強い意気込みを示した。
この刀は、金杉陣屋での元興と是一の作刀を耳にした会津藩士(注④)の需めで鍛造された、二尺五寸を超える大作。身幅広く両区深く重ね厚く、鎬筋強く張り、反り高く中鋒に造り込まれた洗練味ある姿。しかも研数をさほど経ず、生ぶ刃が遺された健全無比の一振。地鉄は鎬地に柾目肌が美しく流れ、平地は小板目に流れごころの板目肌を交えて詰み澄み、地景が密に入って綺麗に肌起ち、地沸が厚く付いて鉄の冴えた美しい肌合いとなる。互の目丁子乱の刃文は焼高く、しかも焼頭が鬩ぎ合って重花ごころに変化する華麗な構成で、新雪のような小沸で刃縁が明るく、長い足が射し、刃境に砂流しが微かに掛かり、細かな沸の粒子が充満して刃中の照度は高い。焼を充分に残した帽子は乱れ込んで突き上げ、僅かに掃き掛けて小丸に返る。茎の仕立ては極めて丁寧で、銘字が謹直に刻されている。ペリー再来航の翌月、難局に立ち向かう武士の覚悟に応えて、是一が懸命に鎚を振るって応えた、出来優れた雄刀である。
復古思想の武士の需による、黒蝋色塗鞘に頑強な鉄鐔を掛け、山銅地の小柄笄を備え、藍で染めた革巻柄の天正拵が附帯している。注①…現在の港区芝浦一丁目付近である。
注②… 是一は長運斎綱俊の実子で、石堂是一家の七代目を継承した。是一には江戸町奉行遠山金四郎景元のために打った嘉永元年八月日紀の大小がある(『首斬り浅右衛門刀剣押形』上)。
注③…「両葉薙奥刕會津若松住角源元興於武州江戸芝金杦営鍛焉石堂運壽是一淬之」とあり、山田浅右衛門の試銘入りの安政六年紀の刀がある(『銀座情報』二百八十四号掲載)。
注④…登録は福島県九十号と初年度登録の中でも特に若い番号であり、会津藩上級武士の所持の可能性が高い。