短刀
銘 廣正

Tanto
Sig. HIROMASA


相模国 室町後期 永正頃 約五百年前

刃長 八寸五分八厘
反り僅少
元幅 八分
棟重ね一分五厘

金着二重ハバキ 白鞘入

昭和二十九年石川県登録

特別保存刀剣鑑定書(相模 時代室町後期)

Sagami province
Eisho era
(A.D.1504-1521, late Muromachi period)
About 500 years ago

Hacho (Edge length) 26cm
A little curvature
Moto-haba (Width at Ha-machi) approx. 2.42㎝
Kasane (Thickness) approx.0.45cm

Gold foil double Habaki / Shirasaya

Tokubetsu-hozon certificate by NBTHK
(Sagami province, late Muromachi period)

室町時代、東国を治めた鎌倉公方は京都の将軍と折に触れ対立した。これに関東管領上杉氏や有力武将の動向が絡んで争乱の火種が拡大し、享徳三年に鎌倉公方足利成氏が父持氏の敵上杉憲忠を討つに至って(享徳の大乱)関東は戦国時代に突入した。太田道灌や長尾景春、伊勢新九郎などが躍動した当時、相州鍛冶の伝統を担ったのは綱廣、廣次、廣正など廣の字を通名とする刀工で、東国武士の武功を支えた。
永正頃の相州廣正(注①)の作になるこの短刀は、身幅尋常に重ねが薄く、格調高い真の棟に仕立てられ、反り殆ど無く、繊細鋭利な鑚使いで刻された梵字と護摩箸の彫(注②)が映えた、美しくも厳かな一口。板目に杢目を交えた地鉄は、地景が太く入り、地肌が明瞭に起って大樹の断面を想わせ、さらに地沸が厚く付いて沸映りが立つ。直刃基調の刃文は焼が低く、腰元と物打に互の目が配されて村正の如く表裏揃い気味となり、真砂のような沸で刃縁明るく、刃境に小形の金線、砂流し、湯走りが掛かって処々ほつれ、二重刃となり、小模様ながら多彩に変化し、刃中も匂で明るく澄む。帽子は掃き掛けて突き上げごころに返る。舟底形の茎は錆色深く落ち着き、二字銘も鑚の線が澄んで鮮明。高位武将と常に戦陣を共にした作で、短躯ながらも室町期の相州鍛冶の優質が凝縮された逸品である。

注①『日本刀銘鑑』によれば廣光と同期の廣正を祖とし、永和、応永、文安、文明、永正、天文と続いている。本作は室町後期永正の廣正である。

注②藤代版『日本刀工辞典古刀篇』に、戦国期の備前に比して相州の彫刻は「小振りで緻密」「一番進歩した技術を持っている」とある。

短刀 銘 廣正短刀 銘 廣正短刀 銘 廣正 白鞘

短刀 銘 廣正 差表切先短刀 銘 廣正差表ハバキ上

短刀 銘 廣正刀身差裏切先短刀 銘 廣正差裏ハバキ上

短刀 銘 廣正ハバキ