特別保存刀剣鑑定書
Hocho (Spear length)15.2cm
Moto-haba (Width at Ha-machi) approx. 1.94㎝
Saki-haba (Width at Kissaki) approx.2.06cm
Kasane (Thickness) approx. 0.88㎝
Registered in Tokyo ( 1995)
Kin tataki nuri Omodaka gata saya,yari koshirae
Whole length 297cm
Scabbard length approx. 23.6cm
Hilt length approx. 264.2cm
Tokubetsu-hozon certificate by NBTHK
袋槍は、筒状の茎に柄を差し込み目釘で止める様式。福岡藩主黒田長政は、必要に応じて木や竹を差し込んで槍として用いることができる袋槍の携帯性と利便性を好んだという(注①)。
文久三年(注②)に製作されたこの袋槍は、細川正義に学んで鍛刀技術を修めた幕臣川井久幸と古河藩工泰龍斎宗寛の合作。宗寛が鍛え、久幸が焼刃を施した珍品。表裏に鎬を立て、横手を設けた構造で、身幅尋常ながら鎬筋が強く張り、如何なる堅物をも刺し貫かんばかりの強さを感じさせ、短寸ながら力感ある姿。小板目鍛えの地鉄は微かに柾がかり、小粒の地沸が厚く付いて淡く映りが立つ。刃文は久幸得意の直刃で、微かに小互の目を交え、小沸付いて匂口きりりと締まって明るく、小足が無数に入り、刃中は匂が敷かれて冷たく澄む。帽子は焼き詰め。細かな鑢で丁寧に仕立てられた茎は錆浅く、謹直な書体で久幸の銘字が、独特の隷書体で宗寛の銘字が刻され、鑚の線が清く澄んで鮮やかである。この槍は風雲急を告げる時勢下の、幕臣或いは古河藩士の注文作であろうか(注③)。
金粉叩塗を施した沢瀉形鞘の、見栄えの良い拵が附帯している。
注①…沼田鎌次先生『新版 日本の名槍』に詳しい。
注②…文久三年三月に将軍家茂が上洛し、孝明天皇は賀茂神社に攘夷を祈願した。五月に下関で外国船砲撃事件が、七月に薩英戦争が勃発し、まさに風雲急を告げる情勢となった。
注③小日向住の幕臣久幸と日本橋箱崎藩邸の古河藩工宗寛の接点はどこにあったのか興味深い。