菊水図逆耳笄
無銘 埋忠

江戸時代前期 山城国京都

山銅魚子地高彫色絵
長さ:170mm強 幅:7.2mm
上製落込桐箱入

特別保存刀装具鑑定書
ご成約を賜りました

 非常に稀ではあるが、古い時代の笄の中には「耳掻」が逆向きについている「逆耳」と呼称されるものがある。本作は、重要刀装具に指定された「花に千鳥図逆耳笄(小社所有)」と同様の長さの小振りな逆耳笄である。肩部がなで肩で眉形の上が蕨手とならず猪目になっているところも同様である。材質は四分一地に近い色合いを呈した山銅地であろうか。形状は、熊野速玉大社蔵の国宝「唐花唐草蒔絵手箱」に収められている耳掻や髪掻のように先端こそ細く尖っているが全体的に一定の太さの棒状をしている。裏面は平らな板状の薄造り。埋忠という極めを前提に推測すれば、逆耳の時代笄の仕立を忠実に再現したのであろう。流水に菊花の上半分だけを配した菊水図は楠木正成の家紋としてもよく知られている。この文様はまた、七百年以上を美しい童形を保って生きたという菊慈童の伝説とも関係が深く、水辺の菊には霊力が宿ると信じられた不老長寿の祈りが込められている。笄そのものも日常の道具であること以上にお守りのような役目を担っていたのかもしれない。日本では古くから先の尖った一本の棒に呪力が宿ると信じられていた。神の依り代となる斎串が好例であろう。笄の耳掻を通常とは反対向きに仕立てる謎多き逆耳笄は何らかの呪術的な意味があったのかもしれない。山銅と思しき魚子地に銀色絵の波という渋く落ち着いた色合いの中にあって素銅の菊花が目に鮮やかである。仔細に見れば花弁の縁には金色絵が残っていて、ここもまた風情がある。
菊水図逆耳笄 無銘 埋忠

菊水図逆耳笄 無銘 埋忠

菊水図逆耳笄 無銘 埋忠

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