幕府御用鍛冶の筆頭に名を連ね、毎年一定の火縄銃を将軍家の需に応じて鍛造した唯一の鍛冶集団が、他ならぬ國友鍛冶。徳川家と國友鍛冶の親密な関係は神君家康公が大坂夏の陣直前に攻城戦に備えて19門の大筒を國友鍛冶より調達している(注1)ことからも伺われる。家康自身も火縄の手錬として聞こえる武将であり(注2)、天下分け目の大戦(大坂城攻め)を見越してなされた大量の注文にその信任の程が伺えるであろう。 表題の火縄銃は二重巻張(注3)の入念な仕立てが誇らしく刻銘された國友勝正の在銘作。様式は堺筒の特徴を兼備し、先端の柑子(こうじ)には美しい筋立てが施されている。元目当は富士山形に筋割を設ける國友流で、保存状態が先目当共々完璧な点も好ましい。太い胴金部分には尚武の象徴たる兜を意匠し、シノギ目金具にはそれぞれ梅花をあしらっている。銃床底部には正確な射撃を願い、真鍮の飾金具にて那須与一の留守模様たる「日輪を描いた扇の的」と「弓矢」が大胆に配されている。絡繰機構の動作にもガタツキはなく、標的を打ち抜く精巧な仕上がりに國友鍛冶の本領が良く発揮されている。 (注1)慶長十五年(A.D.1610)七月十日に稲富流の流祖一夢が認めた大筒十九門の受取書がある(「火縄銃の歴史と技術」 宇田川武久著)。 |
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