摂津国 天保 百八十七年前
刃長 二尺一寸二厘
反り 五分六厘
元幅 八分七厘
先幅 五分八厘
棟重ね 二分
鎬重ね 二分一厘
上蓋金色絵下蓋銀地二重ハバキ 白鞘付
朱笛巻塗菊花壽文字陰蒔絵鞘打刀拵入
拵全長 二尺九寸五分
柄長 七寸強
和二十六年山口県登録
特別保存刀剣鑑定書
Settsu province
Tenpo 8 (A.D.1837, late Edo period)
187 years ago
Ha-cho (Edge length) 63.7cm
Sori (Curvature) approx. 1.7cm
Moto-haba (width at Ha-machi) approx. 2.64cm
Saki-haba (width at Kissaki) approx. 1.76cm
Kasane (thickness) approx. 0.64cm
Gold plating and silver double Habaki
Wooden case (Shirasaya)
"Kikka" and "Kotobuki" letter makie
shu fuemaki nuri saya, uchigatana koshirae
Whole length approx. 89.4cm
Hilt length approx. 21.2cm
Tokubetsu-Hozon certificate by NBTHK
畠山大和介正光は江戸後期の大坂で活躍した刀工。『新刀銘集録』巻六に「太刀ノ姿幅廣クキタイ細((鍛え細かく))、大乱刃を焼(やき)、錵匂(にえにお)ヒ深(ふか)シ。助廣ノ風有テ上手ナリ」とあり、濤瀾乱刃や大互の目乱の優品が遺されている。尚、顧客には、天保八年二月、御政道に異を唱えて挙兵した元大坂町奉行所与力大塩平八郎もいた(注①)。
この刀は「紀府」とあることから、紀州徳川家の城下で精鍛された大小一腰の大刀(注②)。刃長二尺一寸強の、手持ち軽やかにして反りの高い美しい姿。晴やかで精美な小板目鍛えの地鉄に、互の目乱の刃文が清浄な沸で刃縁明るく焼かれ、物打付近にはやや荒めの沸が付いて二重刃がかり、刃中は匂で澄む。帽子は焼深く、掃き掛けて小丸に返る。茎の平地と棟に助廣と同じ香包鑢が掛けられ、銘振りは神妙。とりわけ目立つのは、区上三寸程の平地表裏に焼かれた三つの玉焼。『相剣必用記』に本作と同じ三つの玉焼のある刀図が載せられ「此形の三光も大吉なり」とあり、「極吉釼之圖(きわめてよきけんのず)」とある(注③)。本作も三つの玉焼があり、剣相は大吉。鋒から区上四寸までの棟焼も子細に見ると連続する玉状の焼となっている。
さらに拵の朱笛巻塗鞘は黒漆で表裏様々な角度から描かれた菊花と篆書体の壽文字散らしとされ(注④)、注文主の願いは茎の添銘にもある「長生不老」にあったことが知られる。江戸期の武士の死生観を窺わせ、出来も優れている。
注①…「依 大塩中齋先生命鍛之」と切銘された一尺七寸四分の脇差がある(幸田成友『大塩平八郎』中公文庫)。
注②…「万歳楽紀府大和介正光謹造」と銘した天保七年十一月吉日紀の脇差と大小一腰で、昭和三十八年の特別貴重刀剣認定書が付されていた。
注③…刀剣研究家・佐藤幸彦先生の「剣相学考」(『日本刀研究 佐藤幸彦刀剣論文集』所収)参照。
注④…笛巻塗は均一な間隔ではなく、二分半の間隔で二筋が平行し、それが五分間隔で連なり、そこに菊花と壽蒔絵が映えるという、手の込んだ趣向。