備前国 室町初期応永 六百七年前
刃長 一尺二寸六分
反り 一分六厘
元幅 八分九厘
重ね 一分九厘
彫刻 表裏 棒樋丸止
金着二重ハバキ 白鞘入
昭和五十三年大阪府登録
特別保存刀剣鑑定書
百三十五万円(消費税込)
Bizen province
Oei era(A.D.1394-1427, early Muromachi period
About 607 years ago
Hacho(Edge length) 38.2cm
Sori(Crvature)approx. 0.49cm
Moto-haba(Width at ha-machi) approx. 2.7cm
Kasane (Thickness) approx. 0.58cm
Engraving: "Bo-hi" maru-dome on the both sides
Gold foil double Habaki / Shirasaya
Tokubetsu-Hozon by NBTHK
Price 1,350,000 JPY
康光は「応永備前」として盛光と並び尊称された名工。太刀にも名品はある(注①)が、寸の延びた短刀や小脇差が多い(注②)。当時、太刀を佩用して室町御所に入る事はできず、許されたのは腰刀のみ(二木謙一『中世武家の作法』参照)。武士たちは一尺三寸前後の腰刀で室内での危機に備えた。
表題の一尺二寸強の平造脇差こそ、まさに応永頃の武士が花の御所内で帯びた一口。身幅重ね充分で反りが浅く、身幅の割に寸法が延び、表裏に棒樋が丸留とされた室町初期応永頃の典型的な姿。詰み澄んだ地鉄の底に配された綺麗な杢目肌は盛光や康光の本領たる応永杢。肌目に沿って細い地景が能動的に働き、厚く付いた微塵の地沸が光を柔らかく反射し、刃に沿って濃淡変化に富んだ直状の映りが鮮明に現れる。直刃の刃文は、小沸が柔らかく降り積もって刃縁が明るく、刃境に小形の打ちのけ、微かな喰い違いを交えて水色に澄む。帽子は端正な小丸返り。保存状態が良好な茎の銘字は、長の第六画、光の最終画が勢いよく撥ねて康光の特長が顕著。関東で勃発した上杉禅秀(注③)の乱が終息した応永二十四年正月、特別の需で精鍛された作であろうか。応永康光の美点が遺憾なく発揮された直刃出来の佳品である。
注①…重要文化財の太刀が四振、重要美術品の太刀が三振ある(『日本刀銘鑑』)。
注②…藤代版『日本刀工辞典』に「寸延短刀、小脇差多く、太刀は少ない」とある。
注③…応永二十三年五月、鎌倉公方足利持氏を討たんと挙兵するも敗北。