桐紋鳳凰螺鈿蒔絵鞘衛府太刀拵
脇差 銘 備州長舩忠光
文明十五年二月日
"Kiri, HoO" raden makie saya,edudachi koshirae
Wakizashi:[Ichiyo Aoi-mon]Bishu Osafune TADAMITSU
Bunmei 15 nen 2 gatsujitsu

備前国 文明 五百四十一年前

刃長 一尺七寸九分三厘
反り 五分三厘
元幅 八分九厘
先幅 五分七厘
棟重ね 一分七厘強
鎬重ね 二分二厘
金無垢一重太刀ハバキ 白鞘入

桐紋鳳凰螺鈿蒔絵鞘衛府太刀拵 平緒付
拵全長 三尺二寸
柄長 七寸五分

昭和三十一年大阪府登録

刀身 特別保存刀剣鑑定書
拵 特別保存刀装鑑定書
価格 四百万円

Bizen province
Bunmei era
(A.D.1469-1486, Mid Muromachi period)
541 years ago

Hacho(Edge length) 54.3cm
Sori(Curvature)approx.1.61cm
Moto-haba(Width at Ha-machi)approx.2.58cm
Saki-haba(Width at Kissaki) approx.1.73cm
Kasane (Thickness) approx.0.67cm

Pure gold single"Tachi"typed Habaki
Shirasaya

"Kiri,HoO" raden makie saya,
efudachi koshirae
Whole length approx. 97cm
Hilt length approx. 22.7cm

Tokubetsu-Hozon by NBTHK
(Both Sword and Koshirae)
Price 4,000,000 JPY

 備前國長舩忠光は、備前、播磨、美作の守護大名赤松氏に仕えた右京亮勝光や左京進宗光、また彦兵衛尉、与三左衛門尉を輩出した祐定と技を競い、武将の需に応えて槌を揮った。別けても、文明、長享頃を活躍期とする彦兵衛尉の名は、忠光家の棟梁として備前刀史に深く刻まれている。
 この脇差は、身幅重ね尋常で鎬筋が屹然と立ち、腰反りが高く中鋒の小太刀を想わせる優美な姿。地鉄は小板目肌に杢を交えて微塵に錬れ、肌目に沿って穏やかな地景が入り、小粒の地沸が厚く付いて地肌がしっとりと潤い、刃寄りに澄んだ暗帯部を伴い、鎬筋に沿って霞のような映りが立ち現れ、一段と冴える。直刃調の刃文は小互の目、小丁子、浅い湾れを交えて小足が無数に入り、淡雪の如き小沸が柔らかく降り積もって刃縁明るく、刃境に小形の金線、細かな砂流しが掛かり、匂が敷き詰められた刃中には淡い沸筋が流れ、その美観たるや極上の綾織物。帽子は華麗に乱れ込んで小丸に返る。茎の保存状態も優れ、鑚当たりの強い銘字は「長」の第六画が跳ね上がって釣り針形となる彦兵衛尉忠光の特色が顕著(注①)。俗名こそないものの(注②)最上級の鋼を以て鍛造されたことは明白。その限りなく澄みわたった地刃を見るに、心洗われる思いを禁じ得ない。
 付されている拵は、従四位侍従以上将軍までの地位にある武家が、衣冠を着用した御大礼の際に帯びる衛府太刀(えふたち)の様式。重厚な色合いの金梨子地塗の鞘に金切金による五七の桐紋と金粉蒔絵による唐草文を濃密に施し、桐樹の間隙を飛翔する鳳凰を透明感のある虹彩を放つ青貝螺鈿と微妙に色を違えた金粉盛上蒔絵で表現した極細密の仕立て。特に青貝の上に金粉蒔絵を施すことにより、鑑賞する角度の違いによって翼や嘴などに淡い青色が浮かび上がるという、頗る凝った手法を採り入れている。これを装う総金具は、磨地に唐草文と松皮菱の家紋を毛彫に表して金色絵を施した、荘厳な風合いを漂わせる作。粒が大きく突出した出鮫柄に松皮菱紋図目釘仕立ての目貫と、表に同じ家紋図俵鋲、裏には菱菊の俵鋲を据えており、分銅形鐔から露先金物を備えた兜金まで、総てが鮮やかで重厚な風合いに包まれている。山形金物に七ツ金も健全。特筆すべきは、古式の文様が織り出されて刺繍が加えられた平緒が付帯している点。

注①…「彦兵衛作」の添銘がある文明十四年紀の備州長舩忠光の脇差(『日本刀工辞典』)と銘形は同一である。

注②…入念作の多くは備前國銘ではなく備州銘。尚『刀剣銘字大鑑』に「真ノ無疵也。最上ノ出来代金廿五両也」(天保頃の二十五両は高額)と注記入りの明応二年紀の刀も備州銘である。