武蔵国
安政 五十四歳
百六十七年前
刃長 九寸九分
反り
一分九厘強
元幅 一寸三厘
棟重ね 二分
鎬重ね
二分三厘
上蓋金着下蓋赤銅着二重ハバキ
白鞘付
黒石目地塗鞘合口短刀拵入
拵全長 一尺五寸七分
柄長 三寸四分強
平成二十年石川県登録
特別保存刀剣鑑定書 六十五万円(消費税込)
Musashi province
Ansei 4(A.D.1857, late Edo period)
167 years ago
Ha-cho (Edge length) 30cm
Sori (Curvature) approx. 0.58cm
Moto-haba (width at Ha-machi) approx. 3.12cm
Kasane (thickness) approx. 0.7cm
Gold foil and Shakudo double Habaki
Wooden case (Shirasaya)
Kuro ishimeji nuri saya, aikuchi tanto koshirae
Whole length approx. 47.6cm
Hilt length approx. 10.3cm
Tokubetsu-Hozon certificate by NBTHK
Price 650,000 JPY
次郎太郎直勝は上総国山辺郡台方村花輪(現東金市)の有力農家の出で本名を伊藤正勝といい(注①)、水心子正秀の復古刀理論の実践者大慶直胤に文政二年十五歳の時入門し、後に娘聟となった。備前、相州両伝を能くし、師直胤に勝るとの評(藤代版『日本刀工辞典』)もある程の名人であった。
この短刀は、鬼の包丁のように豪快ながら、鎬と棟の稜線がきりりと立って洗練味を感じさせる造り込み。地鉄は鎬地を細かな柾目に、平地を詰み澄んだ小板目肌に錬り鍛え、細かな地景が密に入って肌起ち、粒立った地沸が均一に付いて潤い、晴れやかで美しい鉄色を呈する。長光を念頭に独創性が加味された刃文(注②)は、腰元に角がかった互の目に尖りごころの刃を交えて華麗に乱れ、新雪のような沸で刃縁が明るく、金線が掛かって匂足が長く入り、その上は一転して直刃となり、刃縁が締まって明るく、小足が無数に入り、清浄な匂で刃中は澄明。帽子は突き上げて長めに返る。茎の仕立ては水心子正秀や大慶直胤と同様に極めて丁寧で、銘字も鮮明。直勝の造形美への感覚と鍛刀技が示された佳作となっている。
這龍図小柄と桜花文で装われた合口拵に収められている。
注①…正勝少年を見た占い師は「金物を取扱う業につけば、将来の成功間違いなし」と言ったという(『東金市史』)。
注②…「不忘其本」と添銘のある天保四年二月十六日紀の刀(第四十九回重要)の刃文に似ている。