脇差
銘 水心子正次(花押)
嘉永四年二月日
Wakizashi
Suishinshi MASATSUGU(Kao)
Kaei 4 nen 2 gatsujitsu

武蔵国 嘉永 百七十一年前
刃長 一尺五寸五分七厘
反り 三分三厘
元幅 九分三厘
先幅 六分三厘
棟重ね 二分
鎬重ね 二分強
金着一重ハバキ 白鞘付

一分刻黒石目地塗鞘脇差拵入
 拵全長 二尺二寸
 柄長 五寸二分

平成十七年栃木県登録

特別保存刀剣鑑定書

Musashi province
Kaei 4(A.D.1851, late Edo period)
171 years ago

Ha-cho (Edge length) 47.2cm
Sori (Curvature) approx. 1cm
Moto-haba (width at Ha-machi) approx. 2.82cm
Saki-haba (width at Kissaki) approx. 1.91cm
Kasane (thickness) approx. 0.61cm
Gold foil single Habaki
Wooden case (Shirasaya)

Ichibu kizami kuro ishimeji nuri saya,wakizashi koshirae
 Whole length: approx.66.7cm
 Hilt length: approx.15.8cm

Tokubetsu-Hozon certificate by NBTH

 水心子正次は、新々刀の父と仰がれる水心子正秀の孫。十三歳で祖父と父貞秀に死別したため祖父の高弟大慶直胤に入門し、後に師の娘婿となる。正秀と直胤両工が終生の目標とした古作の再現に感化されて自らも試み、「太刀姿正秀ニ似タリ。地鉄ノキタイ直胤ニ似タリ」(『新刀銘集録』巻二)と技術が高く評価されている。
 この脇差は、大小一腰の脇差として鍛造されたとみられ、尋常な身幅と重ねながら両区深く、腰反り高く中鋒の古調な姿。微塵に詰んだ小板目鍛えの地鉄は小粒の地沸が厚く付いて潤う。刃文は焼の高い丁子乱刃が重なり合った重花丁子。刃縁に沸が良く付いて明るく冴え、僅かに金線と砂流しが掛かり、匂で澄んだ刃中には繁く入った足と飛足が左右に広がって交叉し、鎌倉時代の備前福岡一文字を想わせる。焼頭の上の淡い飛焼は備前古作の映りの再現が試みられたものであろう、意図せぬ景色を生み出している。帽子は乱れ込んで小丸に返る。茎は錆が浅く保存状態が頗る優れ、丁寧な茎の仕立てと入念に刻された銘字、刻印は祖父正秀に近似。刃形の模倣に留まることのない正次の、作刀への意欲に満ちた佳品となっている。
 一分刻み鞘とされた瀟洒な造りの拵は刀身と同時に製作された生ぶのままで、狂言の一場面の如き滑稽味ある図の目貫が巻き込まれ、柄糸の間から際端銘が垣間見えて興味深い。