氷心子秀世(ひょうしんしひでよ)は、水心子正秀の門人で本名を田村群平といい、越後高田藩榊原家に仕えた。自作の刀に杉邨氷心子平秀世焠と添銘があり、後に杉邨姓を名乗ったのであろうか。麻布今里に住し、作品は文政十一年から安政三年頃までみられ、師水心子正秀の復古刀理論に感化されて古作写しが多く、姿、地鉄造り、焼刃には独自の工夫の跡がみられる。通説は秀世を正秀の娘婿とするが、勝海舟の父小吉の『夢酔独言』に「水心子天秀といふ刀かじの孫婿に氷心子秀世といふ男」という記述から、北司正次の妹で書画を能くした孫娘美須の婿と訂正されるべきであろう。
　表題の太刀も、古刀山城物に私淑したと思われる一口で、茎を古名刀に見るような雉子股に仕立てて笠木反り高く中鋒に造り込み、腰元に梵字と護摩箸の彫が映え、姿に力感が漲っている。柾肌を交じえた小板目鍛えの地鉄は地沸が均一に付き、鏡肌とはならずに肌目が現れ、細かな地景を潜ませて古調を醸している。小沸出来の直刃は刃縁ふっくらとし、刃境に段状の湯走りが掛かり、小足が無数に入り、刃中も匂で澄む。このような大作は同作中でも他に類例がなく、おそらく氷心子秀世の生涯の傑作と称賛されるべきものであろう。