脇差
銘 作陽幕下士細川正義〔刻印〕
弘化二年二月日

Wakizashi
Sakuyo bakuka no shi
Hosokawa MASAYOSHI[Koku-in]
Koka 2 nen 2 gatsujitsu

武蔵国 弘化 六十歳作 百七十五年前
刃長 一尺三寸三分六厘
反り 二分六厘
元幅 九分一厘
先幅 七分五厘
重ね 一分八厘
金着二重ハバキ 白鞘付

黒漆塗珊瑚埋込鞘脇差拵入
 拵全長 二尺七分
 柄長 五寸三分

平成九年鹿児島県登録

特別保存刀剣鑑定書

Bizen province
Tensho era(A.D.1573-1591, Momoyama period)
About 443 years ago

Ha-cho (Edge length) 64.7cm
Sori (Curvature) approx. 1.52cm
Moto-haba (width at Ha-machi) approx. 3.12cm
Saki-haba (width at Kissaki) approx. 2.21cm
Kasane (thickness) approx. 0.73cm
Gold foil double Habaki
Wooden case (Shirasaya)

Published in "Nihon toko jiten (Koto hen)"
  by Fujishiro Yoshio and Fujishiro Matsuo,
 "Nihonto Bizen den taikan"

Tokubetsu-Hozon certificate by NBTHK

 水心子正秀の七十人を超える門弟(注)中でも、細川正義は大慶直胤と共に別格として評価されている。天明六年に下野国鹿沼に生まれ、業成って後は美作国津山藩松平家に仕えて江戸で活躍。相州伝と備前伝の名品を手掛け、水心子正秀門中の俊才として刀史にその名を遺している。
 この脇差は、棟を真に仕立て、身幅広く重ね厚く、腰反り高く鋒が延びた、南北朝期の大太刀を縮小したるが如き姿。良く詰んだ小板目鍛えの地鉄は杢を交え、細かな地景で古風に肌起ち、一段と鉄が冴える。焼頭が押し合うように接近してふっくらと丸みのある小互の目小丁子の刃文は、尖りごころの刃を交えて高低広狭変化に富み、帽子は華麗に乱れ込んで掃き掛けて僅かに返る。盛んにほつれ掛かる刃境は白雪のような小沸で明るく、匂で澄んだ刃中には細かな金線と砂流しが盛んに掛かり、匂足が左右に開きごころに長く射す。浅く反った茎の保存状態は良好で、鑚の底が白く輝き、細く強く掛けられた筋違鑢の随所に玉を突く正義の特色が顕著で、美作津山藩士を意味する「作陽幕下士」の添銘も誇らしげ。南北朝期の相伝備前の兼光を念頭に精鍛された、名手細川正義の個性が凝縮した優脇差である。
 拵は普段差し大小の小刀で、黒漆塗鞘に珊瑚を散らして風に舞う紅葉を想わせる趣向。縁、鐔、栗形は赤銅地に金を活かした華麗な秋草図。腰帯への収まりの良さを考慮して鞘裏の肉を削ぎ、鋭利な鑚遣いで流水に萩図を彫り描いた瀟洒な銀の厚板を嵌め込んでいる。内外とも得難い逸品となっている。

注…南海太郎朝尊著『新刀銘集録』参照。