平造脇差
銘 傘笠正峯作之
平成六年二月日

Hira-zukuri wakizashi
Sanryu MASAMINE kore wo tsukuru
Heisei 6 nen 2 gatsujitsu

隅谷正峯 人間国宝 石川県松任市 七十三歳作
刃長 一尺五分六厘
反り 六厘半
元幅 一寸三厘
重ね 一分八厘弱
彫刻 表裏 棒樋掻流し
金着一重ハバキ 白鞘付

黒蝋色塗鞘合口拵入
 拵全長 一尺五寸八分
 柄長 四寸

平成六年石川県登録

特別保存刀剣鑑定書
百二十万円(消費税込)

Sumitani Masamine
Intangible cultural property holder
Lived in Ishikawa prefecture
Forged in 1994, Work at his 73 years old

Ha-cho (Edge length) 32cm
Sori (Curvature) approx. 0.2cm
Moto-haba (width at Ha-machi) approx. 3.03cm
Kasane (thickness) approx. 0.54cm
Engraving: "Bo-hi" kaki-nagashi on the both sides
Gold foil single Habaki
Wooden case (Shirasaya)

Kuro roiro nuri saya, aikuchi koshirae
 Whole length: approx. 47.9cm
 Hilt length: approx. 12.1cm

Tokubetsu-Hozon certificate by NBTHK
Price 1,200,000 JPY

 隅谷正峯刀匠は昭和五十六年四月に国重要無形文化財保持者に認定された現代刀界の第一人者。鎌倉期の備前刀を研究し、昭和四十三年からは自家製鋼にも挑戦するなど意欲的に活動し、さらに時代の上がる正倉院の上古刀の地鉄研究にも取り組んだ。元号が平成に改まった頃、ふと立命館大学時代の恩師桜井正幸の「昔の刀は和銑から造っていた」との言葉が脳裏に蘇ると銑卸しに挑み、映りの再現に見事に成功。隅谷正峯師は、人間国宝として不動の名声を得た後も、理論構想と実践を繰り返し、ひたすら前進する姿勢を貫いた、まさに刀界の巨人と言えよう。
この平造脇差は、加賀前田家伝来の青江次直を念頭に精鍛された作で、棟を真に造り、身幅広くわずかに反り、棟寄りに棒樋が掻かれてふくらがやや枯れた、南北朝中期の小脇差の造り込み。小杢目肌に板目を交えた地鉄は地景が細かに入って肌立ち、小粒の地沸が厚く付き、平地に刃文の影のような映りが立ち現れて刃寄りが澄み、隅谷師の映り研究の成果が歴然としている。刃文は丁子に房状の刃、尖りごころの刃を交えて逆がかり、白雪のような小沸で刃縁が明るく、逆足(さかあし)が盛んに入って細かな金線と砂流しが掛かり、匂が立ち込めた刃中は霞立つように澄む。帽子は沸付いて乱れ込み、突き上げて長めに返る青江帽子。茎は製作時そのままに白く輝き、三流を洒落れた「傘笠(さんりゅう)」を冠した銘字が入念に刻されている。 附帯する拵は、六つ葵紋目貫、虫図がしっとりとした平象嵌描でかれた加賀の小柄で装われて上品である。