平造脇差
銘 筑州住人
冷泉貞盛

筑前国 南北朝中期正平頃 約六百七十年前
刃長 一尺二寸一分六厘(36.8cm)
反り 三分
元幅 一寸一分一厘半
重ね 二分三厘強
彫刻 表 喰違樋掻流し 裏 二筋樋掻流し
朱潤塗鞘脇差拵入
拵全長 一尺九寸五分
柄長 四寸五分
『春霞刀苑』第五号初夏号所載

 

平造脇差 銘 筑州住人冷泉貞盛

朱うるみ塗鞘脇差拵 平造脇差 銘 筑州住人冷泉貞盛平造脇差 銘 筑州住人冷泉貞盛 白鞘

平造脇差 銘 筑州住人冷泉貞盛 刀身差表切先平造脇差 銘 筑州住人冷泉貞盛 刀身差表ハバキ上

平造脇差 銘 筑州住人冷泉貞盛 刀身差裏切先平造脇差 銘 筑州住人冷泉貞盛 刀身差裏ハバキ上


 冷泉貞盛(れいせんさだもり)には、正平廿五一月日紀(北朝年号の貞治四年)の重要美術品に指定された「筑州冷泉貞盛」の短刀がある。冷泉とは博多の別称冷泉津に因み(注①)、貞盛は筑前博多住の意味及び名乗りとして匠名に冷泉を冠したものであろう。博多は大宰府に近く、大陸との往還で栄えた国際都市。その守護を担った武士の為に刀工が鍛冶場を構え、鎌倉時代には良西、西蓮、入西、実阿、南北朝時代には左文字や金剛兵衛盛高などが活躍しており、冷泉貞盛もその一人であった。
 冷泉貞盛の在銘作は、従来、先述の重美の短刀のみで、無銘冷泉貞盛極めの基準として不動の価値を誇って来たが、基準となるその作風から、本阿弥光博師が『春霞刀苑』に書いたように、従来は「細直刃の、割合いに見どころの尠いもの」とする見方もあった。
 表題の平造脇差は重美に次ぐ冷泉貞盛の在銘作。しかも身幅が広く重ねも厚く、表裏に樋が掻かれて尚手持ちずしりと重い頗る健全な一口。板目に杢を交えた地鉄は太い地景が蠢いて、刃寄りが僅かに黒みを帯び、つぶらな地沸が白く輝き、貞盛の特色とされる「濁り」は聊かもない晴れやかな鉄色。刃文は浅い湾れに互の目を交え、銀砂のような沸で刃縁が明るく、沸足を遮るように金線と砂流しが断続的に掛かり、寸断された足は葉となり、刃中も沸付いて明るい。帽子は乱れ込み、掃き掛けて小丸に長めに返る。茎は錆色深く落ち着き、古拙飄々たる銘字も味わい深い。冷泉貞盛観の改変を迫る現存稀有の傑作(注②)である。
 金粉散らしの朱潤塗鞘脇差拵は、韋駄天疾鬼図金目貫とキゾチックな平田七宝縁を付した柄前、車透図の金鐔、肉高く彫られた剣巻龍図小柄で装われた、実に豪華な作である。

注①…冷泉の呼称は鎌倉初期貞応元年人魚検分に来た勅使冷泉某に因むという(『日本刀大百科事典』)。

注②…本作の重要刀剣の説明図譜では「刃中に砂流しよくかかり、帽子に至るま で豊富な変化が見られる点は好ましく同工傑出の一口」と絶賛されている。

貞盛押形


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