無銘 大和古剣
朱漆塗鞘合口短剣拵

大和国
平安末期~鎌倉初期 約八百三十年前

刃長 七寸一分九厘(21.8cm)
反り 五分一厘
元幅 一分六厘
重ね 一分六厘
彫刻 表裏 鎬樋掻流し
銀地一重ハバキ

朱漆塗鞘合口短剣拵
拵全長 一尺二寸二分強(37cm)
柄長 四寸
鞘長 八寸一分五厘

 

剣 無銘 大和古剣

朱漆塗鞘合口短剣拵 剣 無銘 大和古剣朱漆塗鞘合口短剣拵 剣 無銘 大和古剣

剣 無銘 大和古剣 白鞘

朱漆塗鞘合口短剣拵  刀身差表切先朱漆塗鞘合口短剣拵 刀身差裏切先

唐草文総金具

獅子図目貫 金無垢地容彫

獅子図目貫 金無垢地容彫


剣 無銘 大和古剣 ハバキ

 古来、仏法は王法と並ぶ国家の両輪の一つとして重んじられてきた。聖徳太子の法隆寺や四天王寺、九州の宇佐八幡宮、最澄の延暦寺や真言密教の道場教王護国寺や金剛峯寺、奈良興福寺等の大寺社では剣が特別の法具として重要視され、千日行に臨む僧侶は携えた師伝の剣を観て、心を奮い立たせて修業に臨み、もし修業が成らぬ場合にはその剣で自刃する覚悟であったという。また戦国武将上杉謙信も剣の霊性を重んじた一人で、戦の前には梵字が刻された剣を神に供えて軍神降臨を祈ったという。
 表題の剣は大和千手院派の鍛冶の手になる古剣で、製作は平安末から鎌倉初期の所謂古千手院。小振り鋭利な姿に神性が宿り、ゆったりと流れた柾目肌に地景が入り、地沸が微塵に付いて肌が潤う。細直刃の刃文は地鉄の鍛えに感応して流れ、沸深く刃縁茫洋とし、茎は鉄味トロリとし、表裏から穿たれた目釘穴も古様式。古千手院鍛冶特有の作にて古色蒼然の趣が漂う。
 室町後期の作とみられる朱漆塗鞘の異形の拵は、漢高祖劉邦の軍師諱信(背水の陣で知られる)等が用いた剣に倣ったもので、流れるような線刻の朱漆が陰影を成して味わいが格別。唐草文が毛彫された堅牢な鉄金具には銀布目象嵌が施され、染み出した銀黒が鞘の朱漆にまで滲んで変色し、歳月の流れに感慨も一入。鞘口の☰と☷の文様は易学の乾坤で、陰陽からなる大宇宙を暗示している。目貫は金無垢地容彫の仏法の守護獣獅子図で、後藤乗真と同時代の金工の作と鑑られる。奇跡的に伝存された作で、真摯な信仰を物語る稀有の文化史料となっている。

注…龍門蒔絵鞘三鈷柄剣拵に収められた、教王護国寺伝来の無銘千手院の剣がある(第十八回特別重要刀剣)。なお図譜の解説には「剣は武家の実用品ではなく、御神体か、仏像の持物か、或いは祭祀に用いられたものである」とある。

但州法城寺押形


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