銘 建依別中島氏詮造之(土佐)
文久三癸亥正月日

Katana
Takeyoriwake Nakajima UJINOBU
kore wo tsukuru (Tosa province)
Bunkyu 3 Mizunoto-I Shogatsujitsu


土佐国 文久 四十五歳 百五十九年前

刃長 二尺五寸四分
反り 五分
元幅 一寸六厘
先幅 六分九厘
棟重ね 二分九厘
鎬重ね 三分

金着一重ハバキ 白鞘付

黒蝋色塗鞘打刀拵入
拵全長 三尺四寸
柄長 九寸七分

昭和二十六年高知県登録
特別保存刀剣鑑定書 (土佐)

価格 850,000円(消費税込)

Tosa province
Bunkyu 3 (A.D.1863, late Edo period)
159 years ago

Hacho (Edge length) 76.9㎝
Sori (Curvature) approx. 1.52㎝
Moto-haba (Width at Ha-machi) approx.3.21cm
Saki-haba(Width at Kissaki) approx.2.09cm
Kasane (Thickenss) approx. 0.91cm

Gold foil single Habaki / Shirasaya

Kuro ro-iro nuri saya,
uchigatana koshirae
Whole length: approx. 103cm
Hilt length: approx. 29.4cm

Tokubetsu-hozon certificate by NBTHK
(Tosa province)

Price 850,000 JPY

 黒潮洗う土佐。嘉永六年の黒船来航を機に、山内容堂は吉田東洋を重用するなど、門閥を問わぬ人材登用を軸に藩政改革を実施した。一方、武市半平太は下級武士や郷士、村役人を結集して土佐勤王党を立ち上げ、文久二年には東洋を暗殺した。これにより発言力を強めた勤王党の諸士は、重ね厚く反り浅く、柄鞘共に目立って長い刀を腰に闊歩し、強烈な存在感を示したのである。  表題の氏詮の刀は典型的な勤王党の造り込みで、重ね頗る厚く鎬筋立ち、反りを適度に付けて中鋒延びごころの威圧感に満ちた姿。柾目鍛えの地鉄は全面に地沸が付き、これを分けるように地景が入る。直刃調の刃文は小互の目に小湾れを交え、刃境に湯走り流れ掛かり、物打辺りの地中に飛焼が顕著に現れ、打ちのけ、ほつれ掛かって細かな金線の横切る刃境は小模様にしかも複雑に乱れ、刃中には小足と小さな葉が盛んに入る。焼深い帽子は沸付いて浅く乱れ込み、表は突き上げ、裏は強く掃き掛けて小丸に返る。長い茎に太鑚で刻された草書体の銘字には、刀工の自信が現れている。
 柄と鞘が極めて長い拵は、刀身を装着して一八〇〇グラム、柄を一杯に握ると鋒まで三尺六寸三分に及ぶ。打ち込んだ際の衝撃に備えて厚さ三ミリ、高さ十六ミリの堅牢な鉄地縁金具で補強され、笹蟹図の鉄地頭には「敵に後ろを見せじ」の気構えが示されている。鐔は土佐明珍の波千鳥透図の鉄鐔で、小振りに締り豪胆な風合い。柄に歴然と遺る手の跡が勤王党の志士の熱気を感じさせる。
 作者氏詮は文政二年六月七日土佐国の産。名を中嶋門蔵といい、祖先は江戸前期に阿波海部から来土した中嶋弥三右衛門氏次と伝える。同郷の南海太郎朝尊や藩工左行秀と交流し、行秀からは柾目鍛えの秘伝を伝授されている。自らも刀槍を手に勤王党に参加するも、文久二年には鍛冶場に戻って三百振りの刀を打ち、廃刀令が出るや鎚を置いて神官となり、以降は祝詞をあげて日を送り、西南の役を見届けた翌年六月、その波乱に満ちた生涯に幕を閉じている。

注①…坂本竜馬の盟友中岡慎太郎や饅頭屋長次郎も柄鞘共に長い刀を腰に差して写真機に向っている(山川出版社『レンズが撮らえた幕末の日本』)。

注②…強い斬撃で目釘が折れて、柄から刀の茎が抜け出るのを防ぐべく、 目釘穴が二つ穿たれている。

注③…銘字の「建依別」は土佐国の意味で、『古事記』のイザナギ、イザナミの国産み神話に因んでいる。また氏詮には神代文字で「うじのり」と切銘した作もある(『土佐刀工押型集』)。神代文字は国学者平田篤胤らが研究した中国文化流入以前に原始古代の日本で使用と伝える文字で、氏詮が神学、国学の影響を受けていることを窺わせている。

刀 銘 建依別中島氏詮造之(土佐) 文久三癸亥正月日刀 銘 長曽祢興里入道乕徹

黒蝋色塗鞘打刀拵 刀 銘 建依別中島氏詮造之(土佐) 文久三癸亥正月日

刀 銘 建依別中島氏詮造之(土佐) 文久三癸亥正月日 差表切先刀 銘 建依別中島氏詮造之(土佐) 文久三癸亥正月日 差表中央刀 銘 建依別中島氏詮造之(土佐) 文久三癸亥正月日 差表ハバキ上

刀 銘 建依別中島氏詮造之(土佐) 文久三癸亥正月日 差裏切先刀 銘 建依別中島氏詮造之(土佐) 文久三癸亥正月日 差裏中央刀 銘 建依別中島氏詮造之(土佐) 文久三癸亥正月日 差裏 ハバキ上

波千鳥図鐔 土佐明珎

波千鳥図鐔 土佐明珎

瓜図目貫 白鮫皮着納戸色糸摘巻柄

瓜図目貫 白鮫皮着納戸糸摘巻柄

蟹図頭

縁 鉄地無文

縁 鉄地無文

 

氏詮押形