刃長 一尺一寸四分五厘
反り 一分
元幅 一寸九厘
重ね 一分六厘半
彫刻 表裏 棒樋掻流し
金着一重ハバキ 白鞘入
『人間国宝 隅谷正峯展』図録所載品(注)
平成二年石川県登録
特別保存刀剣鑑定書
Gold foil single Habaki / Shirasaya
Put on "Ningen kokuho Sumitani Masamine ten" catalog
隅谷正峯刀匠は、昭和五十六年四月に国重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された現代刀界の第一人者である。古名刀、別けても鎌倉時代の地鉄の再現に努め、昭和四十三年から二十年程の間は自家製鋼に挑み、更に時代を遡って正倉院の蔵刀等、上古刀の地鉄を研究。元号が改まった平成のある日、ふと「昔の刀は和銑から造っていた」との師桜井正幸の言葉が念頭に浮かび、銑卸しに再挑戦し、古刀の再現は鋼のみならず製法にあると強く認識。理論と実践の日々は、やがて爽やかな映り立つ地鉄となって結実したのである。
この平造脇差は正峯師が得意とした備中青江の逆丁子乱出来で、棟を真に造り、身幅広く重ね控え目に刃先鋭く仕立てられ、棒樋が掻かれ、浅く反りが付いた南北朝期らしい体配。地鉄は小杢目肌が詰み、小粒の地沸が豊麗に湧き立って地肌潤い、繊細な地景が密に働いて縮緬状に肌起ち、鮮やかに現れた映りは焼刃に感応して乱れごころを呈し、自然味がある。逆丁子乱の刃文は、焼頭が匂で尖って高低広狭に変化し、柔らかく付いた小沸で刃縁が明るく、焼刃に伴って逆足が長く射し、葉が浮かび、細かな金線、砂流しが掛かり、匂が充満した刃中も明るい。帽子は乱れ込んで先突き上げて小丸に長めに返る。未だ白銀色に輝く茎には、銘字が堂々と刻されている。古作への想いを胸に日々精進した正峯師の、その到達点が示された優品(注)である。