本阿弥成善(琳雅)鞘書
印籠刻黒石目地雲地文塗鞘合口拵入
拵全長 一尺六寸八分
柄長 四寸
昭和三十二年東京都登録
特別保存刀剣鑑定書
Inro kizami kuro ishime-ji "Kumo"(cloud pattern) nuri saya, aikuchi koshirae
Whole length approx. 50.9cm
Hilt length approx. 12.1cm
世に寛正則光の語がある。これは長舩則光の寛正前後、即ち文安、宝徳、享徳、康正、長禄、寛正、文正、応仁、文明の約三十年間の作刀に出来の優れたものが多い故の賞賛の呼び名であり、時代的には左衛門尉、あるいは五郎左衛門尉の活躍期に該当し、この時代の他工同様、俗名の無いものにも傑出した出来栄えを見せるもの多い(注①)。
享徳二年二月日の年紀を刻する本作は、まさにこの則光最盛期の一口で、重ね厚く寸が延び、反りの付いた応永備前を想わせ、棟寄りに棒樋が掻かれて引き締まった姿。躍動感に満ちた杢目を交える板目鍛えの地鉄は、微細な地沸で覆われた中に地景が明瞭に働いて肌模様が美しく起ち、平地中央に棒状の映りが現れ、焼頭から煙込むような働きも加わってここも応永備前。間遠く腰開き気味に焼かれた互の目の刃文は、小型の丁子を複式に交えて刃縁が小沸匂で明るく、匂足が幽かに射し、冴え冴えとした光沢を放つ。茎に刻された自身の切銘も、刀鍛冶の一所懸命の誠意が籠って感慨も一入のものがあり、この工にしてこの作ありの感を抱かしめるものである。
付帯する拵は、一壽軒英明(注②)の赤銅地雲文図一作金具で、雲龍図小柄、笄の二所は岩間政盧門の信盧(注③)が補っており、印籠刻鞘に革巻柄と、中身に相応しい名拵となっている。