短刀
銘 濃州住兼吉
應永十年八月日

美濃国 應永十年 六百十八年前

刃長 九寸六厘
元幅 八分一厘
重ね 二分強
内反り
彫刻 表裏 棒樋丸止

朱潤塗鞘合口短刀拵
拵全長 一尺四寸五分
柄長 四寸

谷干城遺愛刀

『神津伯押形』
『日本刀関七流』
『室町期美濃刀工の研究』所載

 

 

朱潤塗鞘合口短刀拵 短刀 銘 濃州住兼吉 應永十年八月日

短刀 銘 濃州住兼吉 應永十年八月日 刀身差表切先短刀 銘 濃州住兼吉 應永十年八月日 刀身差表 ハバキ上

短刀 銘 濃州住兼吉 應永十年八月日 切先短刀 銘 濃州住兼吉 應永十年八月日 刀身差裏 ハバキ上

兼吉は室町初期の美濃国を代表する刀工の一人。大和手掻派の出身で、初め包吉と銘したと伝え、南北朝期康応頃を祖とし、以後応永、永享、永正、大永、天正と続いた。初代の法名に因んで「善定(ぜんじょう)」を屋号としたこの家は、室町幕府六代将軍足利義教が富士山見物で下向の際、その腰の物を鍛えたとの伝承(『古今銘盡』)を持つ名流で、美濃刀工の棟梁格として栄えた。
 名将谷干城(たにかんじょう)遺愛と伝えるこの短刀は(注①)、応永十年紀が刻された初代兼吉の作(注②)。身幅の割に重ねが厚く寸が延び、室町初期の時代相が顕著で、僅かに内反りが付き、表裏の棟際に棒樋が掻かれて品格のある姿。刃寄りに柾を配した小杢目鍛えの地鉄は、清浄な地沸が厚く付いて地肌がしっとりとし、棟寄りに映りが立つ。刃文は鎌倉期の古名刀に倣った兼吉得意の細直刃で、小沸が柔らかく付いて刃縁きっぱりと冴え、微かにほつれ、打ちのけが掛かり、小足が入り、匂充満して刃中も澄みわたる。帽子は端正な小丸返り。美濃物特有の細かな檜垣鑢が掛けられた茎は保存が優れ、大らかで力強い鑚使いで刻された銘字も鮮明。大和本国物に全く遜色のない見事な出来栄えとなっている。
 付帯する拵は室町期の武士が用いた腰刀の写しで、鞘塗は大正、昭和の名手佐藤紫川(さとうしせん)師。朱漆で潤塗とされた鞘の色合いが深くしっとりと落ち着き、細糸片手巻柄にも濡れ濡れとした光沢があり、赤銅魚子地の漆黒に金色絵の桐紋が映えた壺笠目貫が付され、品位高く風格ある極上の仕上がりとなっている(注③)。

注①…『神津伯押形』所載の本作には「谷子爵」と注記がある。谷干城は、西南戦争では薩摩軍と奮戦して西郷軍の東上を阻止。実戦で磨かれた鑑刀眼で刃味を見極め、孫六兼元の刀(『銀座情報』二七三号)、「三ツ胴切落」の截断銘のある多々良長幸の刀、郷里土佐の上野大掾久國の刀(『銀座情報』四〇八号)等を佩刀とした。

注②…重要刀剣等図譜には、応永年紀の短刀は本作以外に経眼せず、資料的にも価値が高いとある。

注③…研磨は『本質美に基づく日本刀』『日本刀関七流』の著者山田英師。

兼吉押形



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