令和元年福島県登録
保存刀剣鑑定書
備前長舩勝光は、弟宗光と共に備前、播磨、美作の守護を兼ねた戦国武将赤松政則に仕えている。華麗な乱刃の冴えた遺作の中には、刀身彫刻や文字彫のある刀がある。幕末の剣豪山岡鉄舟所持と伝える「富貴萬福皆令満足天下泰平國土安穏」の彫刻入りの文明十六年二月上吉日紀の刀、摩利支尊天と三鈷柄剣の彫のある文明十八年十二月十三日紀の刀(重美)、三鈷柄剣の彫のある脇差(重要文化財 日光東照宮蔵)などが好例で、いずれも武将の武運長久への想いに応えた力作である。
表題の短刀は不動明王を暗示する素剣の彫が平地にくっきりと映え、茎に「辨才天」「魔王神(注)」の神号文字が施され、戦国武将の信仰の一端が示されている。身幅尋常で元来の重ねが厚く、僅かに内に反ってふくらの枯れた鎧通しの姿。小板目鍛えの地鉄は地沸が微塵に付き、直状の映りが立つ温潤味のある肌合い。刃文は長舩の先達景光や兼光を想わせる片落ち風の互の目で、柔らかな小沸で刃縁が明るく、小形の金線が掛かり、刃中は匂で澄む。帽子はやや突き上げて長く返る。組み打っては敵将の鎧の間隙を突き、また天運尽きたその時には、潔く自身の身を処するべく武将が肌身離さず所持したものである。