脇差
銘 武蔵太安國作
真十五枚甲伏作

Wakizashi
Musashi ta YASUKUNI saku
Shin no 15 mai Ko-buse saku


武蔵国 延宝頃 約三百四十年前

刃長 一尺八寸八分三厘半
反り 四分九厘半
元幅 八分五厘強
先幅 五分七厘強
棟重ね 一分七里半
鎬重ね 二分

金着一重ハバキ 白鞘入

昭和四十五年東京都登録

特別保存刀剣鑑定書

Musashi province
Enpo era (A.D.1673-1680, early Edo period)
about 340 years ago

Hacho (Edge length) 57.1㎝
Sori (Curvature) approx. 1.5㎝
Moto-haba (Width at Ha-machi) approx. 2.58㎝
Saki-haba(Width at Kissaki) approx.1.73㎝
Kasane (Thickenss) approx. 0.61㎝


Gold foil single Habaki / Shirasaya

Tokubetsu-hozon certificate by NBTHK

 中里介山の長編小説『大菩薩峠』の主人公机龍之助は、甲源一刀流の使い手。刀を正眼に構えて一切の躊躇なく敵を斬る、恐るべき美剣士が恃みとしたのは武蔵太郎安國の刀であった。安國は江戸時代の実在の刀工で、名を山本金左衛門といい、祖先は武州八王子城下で小田原北条氏に仕えた下原鍛冶。大村加卜に師事した安國を小説では「其の名は余り知られて居ない」とするが、安國は刃味優れて人気が高く(注②)、享保十四年には将軍吉宗の御前打の栄誉に浴している(注③)。
この脇差は、延宝頃三十歳前後の安國が備前一文字を念頭に精鍛した一口と鑑せられ、身幅重ね控えめで、鎬筋が張って反り高く、中鋒慎ましやかに造り込まれた、小太刀を想起させる姿。鎬地を柾、平地を詰んだ板目肌に鍛えた鉄色明るい地鉄は、細かな地景が縦横に働いて活力に満ち、初霜のような地沸が均一に付いて鎬寄りに淡く映りが立ち地肌が潤う。互の目丁子乱の刃文は、花弁を想わせる刃、丸くむっくりとした蛙子風の刃を交えて高低出入り複雑に変化し、物打付近は殊に焼高く鎬筋を越え、備前一文字を想わせる華麗な刃文構成。焼刃は純白の小沸が柔らかく降り積もって刃縁が明るく、飛焼が頻りに掛かり、匂で澄んだ刃中に足、葉が入り、細かな金線、砂流しが掛かる。差裏の区上付近の湯走りも古作を想わせる。帽子は浅く乱れ込んで小丸に返る。茎は保存が優れ、銘字が神妙に刻され(注④)、大村加卜譲りの「真十五枚甲伏作」の裏銘も鮮明。作刀への旺盛な意欲と研究の跡が示された優品である。

注①…大正年間の新聞小説で大ベストセラーとなった。

注②…江戸後期万延元年、山田浅右衛門吉豊が「於千住太々土壇拂」と試銘を入れた刀がある。また、「生死者是一歩」の刀身彫刻が施された刀、「除災巡求善」の添銘入りの薙刀などがある。

注③…「享保己酉(十五年)の年蒙 台命刀釼を造る」(『古今鍛冶備考巻三』)。

注④…「太郎」を略し「太」とのみ刻するのは珍しい。

脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作 白鞘

 

脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作 差表中央脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作 差表切先脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作 ハバキ上

脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作 差裏切先脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作 刀身差表 中央脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作 差裏ハバキ上

 

脇差 銘 武蔵太安國作 真十五枚甲伏作 ハバキ

安國押形