牡丹図三所物
銘 石黒是美作
島津家お抱え金工石黒政美の嫡子で、後にその名跡を継いだ是美は、石黒家の最大の特徴である正確で精巧な高彫表現を得意とし、殊に四季の風景に取材した百花繚乱の様子を濃密な色金で表現した名品の数々を遺している。
この三所物は、大胆な意匠からなる匂立つような満開の枝牡丹が鮮やか。漆黒の赤銅魚子地は粒が細かに揃っており、ここに鋭い鏨で切り付けたように主題を彫り出して金色絵を施した描法。肉厚感のある花弁には流れるような筋が施されて動きがあり、粒立つ花蕊を包み込む様子はいかにも妖艶。今が盛りと存在感を示す花だけでなく、葉と蕾にも生命感が溢れている。漆黒の赤銅地を活かして金を際立たせた構成も見事。
表裏総体に傷みがなく、哺金の色調も暖か味がある。