平成五年東京都登録
特別保存刀剣鑑定書
特別保存刀装具鑑定書(拵)
価格 百四十五万円(消費税込)
文政二年奥州白川城下に生まれた泰龍斎宗寛は名を大野一といい、天保元年に十二歳で江戸の固山宗次に入門した。刃味が殊に優れてしかも美しい刀の鍛造に情熱を燃す宗次と寝食を共にして修業し、さらに刀身彫も修め、天保七年には古河藩土井侯(注①)に仕官している。独立後も研究を重ね、師に勝るとも劣らぬ刃味の優れた美刀を手掛けた。
この平造脇差は、新都東京で新国家建設が進められていた明治三年三月に、特別の需で精鍛された一口。棟は宗寛らしく真に造り、身幅広く両区深く重ねが厚く、屹然と立った棟の稜線が刃の線と軌を一にし、ふくらから鋒に結ぶ線も緩みなく洗練味のある姿。小杢目鍛えの地鉄は地景が細密に入り、地沸が微塵に付いて煌めき、鉄色は一際晴れやか。互の目丁子乱の刃文は、袋形の刃、片落ち風の刃、焼の中に丸い玉焼を配した刃を交えて逆がかり、帽子は浅く乱れ込んで長めの小丸に返る。蒼く冴えた焼刃は、刃縁に純白の小沸が付いて明るく、焼の谷には足が零れて射し、匂で霞立つ刃中は極上の景観。茎の仕立ては丁寧で、保存状態が良く未だ白く輝き、得意の隷書体の銘字が入念に刻されている。備中青江の逆丁子を範に精鍛されたもので、仕上がりは上々である。 「誠壽造」の銘のある菊、梅、竹、蘭の四君子図銀地揃い金具と牡丹図目貫で装われた、青貝微塵散鞘の美しい拵(注②)が付帯している。