昭和五十一年静岡県登録
特別保存刀剣鑑定書
佐賀藩主鍋島家のお抱え刀工忠吉初代は、慶長十九年に四十三歳で嫡子平作郎を得た。これが後の近江大掾忠廣である。忠吉の刀は有田焼と並ぶ鍋島侯自慢の産物とされ、精鍛させた刀を将軍家や有力諸大名に贈呈した。忠廣は父の指導で十代後半には秘伝を修めており、十九歳で父を喪った寛永九年以降も親族の正廣、行廣らと切磋琢磨し技術を錬磨。忠吉一門の棟梁として大成し、寛永十八年七月二十二日に近江大掾を受領している。
この刀は、近江大掾受領四年後の、意気盛んな三十二歳の作。身幅広く反り高く中鋒に造り込まれ、鎬筋が立って凛とし、古名刀の太刀を想わせる姿。小杢を交えた小板目鍛えの地鉄は杢目状の地景が網目のように働いて活力に満ち、地底から湧き立つ細やかな地沸で潤い、忠廣らしい溌溂たる極上の小糠肌となる。忠吉家が開発して得意とした直刃はごく浅く湾れ、沸付いた帽子はふくらに沿って端正な小丸に返る。明るく冴えた純白の小沸が帯状に連続する焼刃は、刃境に小足、葉が盛んに入って小乱状の景観を呈し、所々二重刃の趣を示し、また一部に細かな金線が走り、刃中には匂が立ち込めて澄みわたる。茎の剣先が鋭いのは正保から慶安頃の特徴で、銘字が一画一画入念に刻され、正保二年紀(注)も貴重である。特別注文で鍛造された一振で保存状態も良く、来國光を見るような美しく品格の高い優品となっている。