昭和二十七年東京都登録
特別保存刀剣鑑定書
南北朝中期文和四年紀の、備前長舩重真の生ぶ茎完存の太刀。重真は兼光と鎬を削った元重の弟で、活躍期は鎌倉末期嘉暦から南北朝中期延文の三十余年。初期には景光を見るような片落互の目の嘉暦二年五月日紀の短刀(第三十四回重要刀剣)や、角張る小互の目を配した直刃出来の建武元年十一月日紀の太刀(『銀座情報』百七十九号)があり、共に銘字は大振り。これに対し、後期には乱映りの立つ地鉄に丁子乱刃を焼いた延文三年十二月日紀の太刀(第十五回重要刀剣)や、片落互の目出来の延文四年二月日紀の短刀(『鑑刀随録』)があり、銘字は小振りとなることから、建武を境に初代と二代に別ける見解もある。いずれにせよ、元重と重真の兄弟が、大太刀を手に人馬一体の激戦を展開した武士の意気に応え、文字通り命懸けで鎚を振るったことは確実である。
この太刀は、腰反り高く鋒から茎尻まで美しい構成線をなし、腰元の樋と梵字が古風で格調高い造り込み。小杢目鍛えの地鉄は地景が蠢き、地沸が微塵に付き、刃文の影のような黒映りが鮮明に立ち、平地の沸が光を柔らかく反射して霞立つ絶妙の景観。刃文は丁子に互の目、片落ち風の刃を交え、淡雪のような沸で刃縁が明るく、刃中には匂が立ち込め、焼刃が蒼く冴える。帽子は表が浅く弛み、裏は乱れ込み、突き上げて小丸に返る。茎に刻された銘字は鑚の線が清く澄んで古雅。弘化三年に金七十枚と格付けされた本阿弥忠敬の添状(注①)が付された、伝家の宝刀(注②)である。