薙刀
銘 邦松
平成十一年二月日



 





東京都 三宅邦松
刃長 二尺七寸六厘(八二糎) 
反り 一寸五厘 
元幅 一寸一分八厘 
ふくら幅 一寸四分 
棟重ね 三分六厘 
鎬重ね 三分八厘 
茎長 二尺二寸一厘 
彫刻 表裏 薙刀樋・添樋 
金無垢地二重ハバキ 
平成十四年東京都登録

 

戦国武将宇喜多能家は、永正十八年に備前長舩次郎左衛門尉勝光と与三左衛門尉祐定に命じ、刃長二尺一寸三分を超える大薙刀を精鍛させた。身幅広く先反りが付いて姿堂々とし、華麗な互の目丁子乱刃が冴えた出来である。腰元に刻された「破軍星之釼」の文字彫は、陰陽道にいう「破軍星之剣」で、北斗七星の第七番の剣形の星が示す方角の敵には必勝するという信仰によるもの。後にこの薙刀を手にした奥州伊達家では、大名行列の先頭にこれを立て、魔除(注①)としたという。
この薙刀は、宇喜多氏の本姓と同じ三宅姓の邦松刀匠が、自ら愛蔵(注②)していたこの宇喜多破軍の薙刀に霊感を得、古名作を範に独創を加えて打ち上げた二尺七寸を超える大作。身幅広くふくら幅たっぷりとして重ね頗る厚く、先反りが付き、薙刀樋を掻き、中程から先の鎬地の肉が削ぎ落されて尚重量(二・一キログラム)があり、樋際の線、鎬筋、棟の稜線が立って姿が美しい。地鉄は無類に錬れて詰んだ小板目肌で、地沸が微塵に付いて潤い、晴れやか鉄色を呈す。刃文は焼高い丁子に互の目を交え、互の目丁子の刃文が鬩ぎ合い、備前一文字の重花風となり、焼刃は匂口締まりごころに小沸付いて刃縁明るく、足、葉が盛んに入り、刃中は匂立ち込めて水色に澄む。焼深い帽子は乱れ込み、刃中に沸筋が掛かって二重刃ごころとなり、先小丸に長めに返る。茎は製作時そのままに白銀色に輝き、化粧鑢の施された逆筋違鑢が丁寧に掛けられ、太鑚の二字銘が力強く刻されている。
邦松刀匠は本名三宅輝義。実業家である。研師で鑑定家の池田末松先生に鑑刀の基礎を学び、名刀を蒐集していたが、作刀への意欲を抑えがたく、廣木弘邦刀匠に入門して作刀技術を修め、備前や青江写しの佳品を手掛けている。

 

注①…厳島の神が平清盛に小長刀を与え、後ろ盾となったとの伝説があり(『平家物語』)、武士が薙刀そのものに特別の意味を見出していたことは明らか。
注②…三宅輝義氏の名義で平成四年二月十九日、第十二回特別重要刀剣に指定されている。



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