古木仕立ステッキ拵入
拵全長 三尺三分六厘
柄長 五寸六分七厘
令和二年兵庫県登録
保存刀剣鑑定書
不思議な文字彫のある帝室技芸員菅原包則の剣。中程が締まり先やや張って鎬筋が立ち、端正な姿。小互の目乱刃の刃縁明るく、帽子の焼深く健全。白銀色の茎には「帝室技藝員」と誇らしげに、「八十一歳作」と力強く刻されている。初霜のような地沸で晴々とした地鉄に浮かび上がった文字の読みは「さむはら」。弾丸除けの霊力のある呪文で、由来は江戸後期天明二年、十代将軍家治の小姓新見正登の奇瑞。登城の時、深堀に馬諸共に落下した新見だが、かすり傷一つない。不思議がる朋輩達に新見は懐から「さむはら」文字が書かれた護符を出した。領民に貰ったという。雉に矢を放ったが悉く外れ、追い込んで捕らえると羽にさむはら文字があり、それを書いた護符であった。奇跡は大評判となり、護符信心が流行。包則も信奉者の一人。さむはら文字彫の作を数々手掛け、九十六歳の齢を全うした。
特製の古木仕立のステッキ拵が付されている。暴漢が襲えば、鉄鐺の付された先端で突き、賊が杖を奪わんと引っ張れば桐紋図縁頭で装われた持ち手から下が抜け包則の剣が煌めく趣向。勿論、平素容易に抜けぬよう留金も万全。伊藤博文、山縣有朋らの施政に協力し、「天下の浪人」といわれた杉山茂丸の如き壮士の護身杖であろうか。珍品である(注②)。