昭和二十六年大分県登録
特別保存刀剣鑑定書
肥前國忠吉の娘婿吉信の子行廣は覇気横溢の乱刃出来を得意とし、兄正廣と共に忠吉宗家を支え、出羽守を受領した。藤馬丞(注①)は行廣初代の子で慶安三年生まれ。天和三年父の没後に二代を襲名し、貞享元年に出羽守を受領。父譲りの阿蘭陀鍛(注②)で父に勝るとも劣らぬ乱出来の優品を数多く手掛けた。
この刀は、受領直前の貞享元年三十五歳頃の作。身幅頗る広く、両区深く重ね厚く、反り高く中鋒やや延びた量感のある姿。素早い抜刀と片手での操刀を宗とする武士の需であろう、寸法控えめで茎も短く仕立てられている。小板目鍛えの地鉄は粒立った地沸が厚く付いて冴え、地景が太く縦横に働いて一段と精強。刃文は互の目に丁子、箱がかった刃、焼頭がむっくりとした刃、腰元がくびれて茸のような形になった刃などが小湾れを交えて奔放に変化。刃縁は銀砂のような沸で明るく、太い沸足が入って金線、砂流しが掛かり、葉が盛んに浮かび、刃中は敷き詰められた沸の粒子で照度が抜群に高く、覇気に満ち満ちている。帽子は一転してふくらに沿って小丸に返る。一文字を添えた銘字は父と同じく鎬地に鑚深く刻され、「以阿蘭陀鍛作」の添銘も誇らし気で、行廣の字も父のそれと同形。茎は重ね薄く造られ、柄木の厚みと武用への配慮は明らか。典型的で出来頗る優れた、行廣二代の堂々の一刀となっている。