平成二十五年東京都登録
保存刀剣鑑定書
永正六年紀の長舩祐定の刀。身幅尋常で腰反りが付き、先反りも加わって中鋒に造り込まれ、角止めの棒樋が掻かれて姿が一段と引き締まっている。茎は短く掌に心地よく収まり、片手で巧みに操作し、至近の敵の鎧の間隙を突くに適し、戦国末期の幅広長寸の刀とは異なる軽快で精悍な構造。地鉄は板目肌が起ち、地沸が厚く付き、地斑を交えて乱れごころの映りが立つ。刃文は浅い湾れに小互の目、小丁子、片落ち風の刃、腰開きごころの刃、蟹の爪形の刃を交えて逆がかり、粒子の細かな沸が付いて匂口の光が柔らかく、金線、砂流し微かに掛かり、焼頭が匂で尖って地に働き、刃中は匂立ち込めて冷たく澄み、刃味の良さを感じさせる。帽子は乱れ込んで小丸に返る。茎はこの時代の備前物らしく栗尻が強く張り、茎長の割に充分な厚みがあり、細鑚の銘字は長の第六画が釣針形に跳ね、与三左衛門祐定の父で棟梁として一門を率いた彦兵衛祐定の銘字に近似している。
都では前将軍義稙と義澄(義昭の父)が対立し、関東では伊勢宗瑞が関東制覇の足掛かりを構築していた時代、武将の左腰の備えとされた一刀。昔の古い研ぎのため、細かなヒケや薄錆が随所にあるが、却って戦国刀ならではの迫力が堪能できる