短刀 銘 備前國住長舩清光 天正十二年八月日
備前国 天正十二年 四百三十七年前 昭和四十八年高知県登録
特別保存刀剣鑑定書
保存刀装具鑑定書
(柄前 縁頭 銘 石黒政美[花押])
Tanto:
Sig. Bizen no kuni ju Osafune KIYOMITSU
Tensho 12 nen 8 gatsujitsu
石黒政美(まさよし)は安永三年生まれ。名工石黒政常初代に学び、同家三代目となる。抜群の鑚力で極上質の赤銅魚子地に鷹や孔雀、鳳凰、牡丹を現出させ、「手が切れる」の表現に相応しい逸品の数々を遺した(注①)。
表題の拵は、石黒政美の極上の縁頭で装われた小さ刀拵。黒蝋色の鞘色美しく、柄は親粒大きな白鮫を着せて二疋牛図目貫が付され、黒糸で固く巻き締められ、鐔は古金工作の波図小鐔。石黒政美作の縁頭は得意の鷹に雀図。高品質の赤銅地に蒔かれた細かな魚子は美しく輝き、雲間から現れた満月で芒繁る草叢に露わとなった雀を狙って、今まさに急降下せんとする鷹の雄姿が、政美の卓越した彫技により、劇的かつ実態的に描かれている。鷹と雀の羽毛の彫は細密で、鷹のしなやかな筋肉にまで政美の意識が及んでいたことは明らか。懸命に逃げる雀の口から覗く舌には石黒得意の緋色銅色絵が施されている。富士越雁図小柄も見事調和し、雰囲気がよい。 付帯する短刀は天正十二年紀の備前長舩清光の作。幅広で重ね厚く殆ど無反りの健全体配で、板目鍛えの地鉄に淡く乱れごころの映りが立つ。匂口締まった中直刃は刃境細かに働き、刃中に小足、葉入り、帽子は突き上げて長めに返り、清光らしい一口。内外とも得難い優品である(注②)。