昭和三十二年大阪府登録
保存刀剣鑑定書
祐定といえば与三左衛門尉祐定、源兵衛尉祐定ら棟梁を筆頭に優工を擁した戦国備前最大の鍛冶集団。当時、合戦では騎馬武者が弓矢や鉄炮を凌ぎつつ敵陣に深く切り込んで戦端を開き、そこに歩兵が槍を手に進撃(注①)。突撃した騎馬武者らの手には、茎短く片手での抜刀に適し、鎬地の肉が削がれ先反りついて截断能力の高い独特の造り込みの刀があった。
表題の刀はその典型作。元来二尺五寸超の長さがあり、磨上られて尚、幅広で鎬筋張り、先反りついて中鋒にて手持ち重く、力感漲る姿。生ぶの茎長は五寸七分程にて片手打に適し、まさに戦国武将好みの一刀。地鉄は板目肌、小粒の地沸厚くつき、淡く湯走りかかって地肌強固に引き締まる。刃文は浅い湾れに小互の目小丁子を無数に交え、小沸ついて焼頭匂で尖り、差表物打付近は直刃、差裏は乱刃にて表裏様相を異にし、差裏下半に腰開きごころになり、与三左衛門尉祐定の蟹ノ爪を想起させる刃を交えて複雑に変化。匂立ち込めて焼刃は冷たく澄んで刃先鋭く、切味の良さを窺わせる。帽子は焼深く、表は二重刃風となり小丸、裏は横手下で喰い違い、乱れて殆ど焼き詰め。個性的な書体の銘が鑚強く刻され、天正七年の裏年紀も貴重。最前線の武士が恃みとした刀の実像が示されている(注②)。