平成六年茨城県登録
保存刀剣鑑定書
式正に則った大小一腰とされた内の脇差拵。掟通り鐺を丸く仕立てた鞘は黒漆塗が艶やかに輝いて美しい。栗形、返角、裏瓦は春爛漫の桜花図で、鞘と赤銅魚子地の漆黒に金色が鮮やかに映える。縁頭は赤銅磨地に所持者の家の亀甲唐花紋散図で、これも黒に金の対比をなし、見栄えと格調の高さを演出している。小柄は金魚子地に二匹牛図で、角を突き合せた筋骨逞しい牛は目に金露象嵌が施され、生気に満ちている。十六葉の菊花を造形した鐔は赤銅磨地の色合い優れ、輪宝小透が効き、親粒大きな白鮫皮包みに卯花色糸蛇腹巻柄も見栄えが良い。
附帯する脇差は、二尺程の刀を大磨上とした無銘の作で、天正頃の壽命(としなが)とみられる一振。鎬地の肉が僅かに削がれて総体に鎬筋が張り、反り高く中鋒の、刃味の良さを感じさせる造り込み。地鉄は鎬地が板目交じりの柾、平地は板目に杢を交えて肌目起ち、地底に地景が太く入り、粒立った地沸が厚く付いて弾力味を感じさせ、焼頭に沿って直ぐ調の映りが立ち、地斑ごころの肌を交えて濃淡変化に富む。美濃物らしい尖りごころの互の目の刃縁は小沸できっぱりと締まって明るく、刃中は匂で澄み、帽子は乱れ込んで突き上げて小丸に返る。