脇差 生ぶ茎無銘 尾張関
尾張国 延宝頃 約三百四十年前 昭和五十八年京都府登録
保存刀装具鑑定書 保存刀剣鑑定書 (尾張関)
Wakizashi: no sign. (Ubu-nakago) Owari-zeki
Hacho (Edge length) 50.2㎝東明(とうめい)は文化十四年京都の生まれ。商家の家督を弟に譲り、自身は後藤東乗門で金工技術を修め、後藤一乗にも師事し、一斎と号した。東明は粟穂図で著名だが、粟穂に笠や箕、雀や鶉等を添えた作では構図と鏨遣いが卓越し、波濤風景、雪月花、富岳など粟穂以外の図柄も風情があって上手である。
表題の石目地塗鞘脇差拵の住吉図縁頭、栗形、鐺は吟松亭東明の作。銀磨地に無造作に打たれた鎚目は遠目には完璧な磯馴松となり、毛彫、片切彫、そして金銀の平象嵌が駆使されて、沖の帆船、住吉神社の鳥居、橋の擬宝珠、海に沈む夕日が印象深く描かれ、「すみのえの松を秋風ふくからに 声うちそふる沖津白浪」と歌われて帝の行幸も仰いだ名勝が再現されている。立鼓が取られて引き締まった形の柄の時鳥図目貫は朧銀地容彫に細かな毛彫と羽毛が彫られ、擦り剥がし風に金の色絵が施され、「郭公雲のたえまにいる月の 影ほのかにもなきわたるかな」の歌を想起させる。鐔は赤城軒と号し一柳友善と合作のある水戸正則作の双竜透図。波を泳ぐ龍と天昇らんとする龍は阿吽の様相となり、鱗細かに立ち、櫃穴の周囲の文様は閃光であろうか個性的な形状。小柄・笄は鉄元堂正楽門の成龍軒栄壽の龍図で、黒々とした鉄地に肉高く彫られた龍は生気凛々として見事。
脇差は、新古端境期に名古屋に移住した尾張関(注)と極められている。