短刀
銘 眠龍子壽實
文化九年二月日

Tanto
Minryushi Toshizane
Bunka 9 nen 2 gatsubi



因幡国 文化九年 二百六年前 三十六歳作
Inaba province, Bunka 9 (late Edo period, AD1812), 206 years ago

刃長 九寸二分四厘 Edge length; 28cm
反り 僅少 Sori (Curvature) a little
元幅 一寸二厘強 Moto-haba(Width at Ha-machi); approx. 3.1cm
棟重ね 二分三厘
鎬重ね 二分三厘強 Kasane (Thickness); approx. 0.7cm
金色絵二重ハバキ 白鞘入
Gold iroe double double Habaki, Shirasaya

平成八年大阪府登録
保存刀剣鑑定書
Hozon certificate by NBTHK



  眠龍子壽實は藩工濱部壽格の子で、安永六年鳥取城下の生まれ。寛政八年二十歳の時、幕府の蔵刀及び刀剣書の調査を命じられた父に従って江戸に出、名刀の数々を熟覧し、江戸の刀工等とも交流して作刀の奥深さを知り、さらなる研究の基礎とした。澄明な地鉄に丁子乱刃の冴えた作風を完成させた壽實は、丁子乱刃の構成を突き詰め、時に富士山を象った刃文(注@)を焼くなど、創作意欲と非凡な技術(注A)を持った優工でもあった。
表題の冠落造あるいは鋒両刃造を想わせる異風な造り込みの短刀こそ、まさに壽實の優れた感性によって生み出された一口。差表に「猪牙造」(注B)の文字彫がある。この鋒の鋭利な姿格好はまさしく猪の牙であり、甲冑の隙間を激しく突いて掻き上げることにより、大柄な敵にも致命傷を与える驚異の造り込み。元幅が広くがっしりとしており、戦国時代に創案された両刃造短刀と鎧通しの性能を併せ持たせた武器と言えよう。小板目鍛えの地鉄は無類に詰んで冴え、焼き出しから始まる得意の丁子乱刃は桜の花弁を想わせ、小沸が柔らかく付いてくっきりとし、匂足長く射し、刃中は匂が満ちて瑞々しい。帽子は乱れ込んで返り棟も焼下げる。茎には太鑚の銘字が堂々と刻されている。短寸ながら眠龍子の個性全開の優作である。

注@…壽實の文化四年二月日紀の平造脇差は焼き出しの直ぐ上に富士山形の刃が焼かれている(『銀座情報』三七一号)。
注A…山浦真雄と清麿兄弟は、濱部一門の壽隆に習い、文政十三年四月、完成度の高い濱部丁子出来の脇差を手掛けている(銘は天然子完利二十七歳一貫斎正行十七歳)。
注B…江戸時代、濠や川が廻らされていた江戸では猪牙舟が活用されていた。波を切って進む舳先の尖った猪牙舟も猪の牙を想わせる。

 

短刀 銘 眠龍子壽實 文化九年二月日短刀 銘 眠龍子壽實 文化九年二月日短刀 銘 眠龍子壽實 文化九年二月日 白鞘

短刀 銘 眠龍子壽實 文化九年二月日 切先表短刀 銘 眠龍子壽實 文化九年二月日 ハバキ上表


短刀 銘 眠龍子壽實 文化九年二月日 切先裏短刀 銘 眠龍子壽實 文化九年二月日 刀身区上差裏

短刀 銘 眠龍子壽實 文化九年二月日 ハバキ

壽實押形
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