昭和二十八年兵庫県登録
特別保存刀剣鑑定書
備前一文字伝の名手加賀介(注①)祐永が、岡山の豪商綿屋虎兵衛(注②)の特別の需に応えて鎚を振るった、出来の優れた脇差。身幅広く腰反り高く中鋒の、鎌倉時代の太刀を縮小したような優美な姿で、無類に詰んだ小板目鍛えの地鉄は初霜のような地沸が微塵について澄み冴える。刃文は得意の互の目丁子乱刃に桜の花びらのような刃を交え、純白の小沸で匂口明るく、匂で霞立つ刃中には足が柔らかく射して葉が浮かぶ。帽子は祐永らしい端正な小丸。腰元の焼出しは山裾の長い富士山刃とされ、冬晴れの空に白い冠雪の映えた富岳が見事に再現されている。茎の保存状態は良好で未だ底白く輝き、入念に刻された銘字に鑚枕が立つ。帝がかぐや姫に贈られた不老不死の薬を焼いて「不死山」と呼ばれるようになったという、その 富岳を象った刃文に長寿の祈りが込められているのであろう。
拵は鮮やかな金唐革塗鞘の脇差拵で、梅と桜に松透図の鐔と、梅に鶯図縁頭は「年月を松にひかれて経る人に今日鶯の初音聞かせよ」(『源氏物語』第二十三帖 初音)を想起させる雅な意匠。周の西伯(文王)の呼びかけに、釣竿を手に振り返る太公望呂尚を描いた目貫は周の興国譚(注③)で、これも縁起が良い。内外とも得難い逸品である。