江戸末期~明治
高さ 82cm 幅 52cm甲冑に用いる小札を縅し付けた構造の、具足に見紛う容姿と高い防御力を併せ持つ、実用性が追求されたずっしりと重い陣羽織。
陣羽織は高位の武将が戦場において甲冑の上に着用し、自らの武威を示すことで自身の存在を際立たせ、敵兵の戦意を挫く一方、自軍の兵卒の士気を鼓舞するという重要な役割を担った戦装束。陣羽織が全盛を誇った桃山時代の代表的陣羽織には、織田信長の黒鳥毛揚羽蝶模様陣羽織や豊臣秀吉の富士御神火文黒黄羅紗陣羽織、伊達政宗の五色水玉模様陣羽織などがあり、各武将が独創性溢れる様々な陣羽織を着用して戦に臨んだのであった。
表題の陣羽織は、裾濃縅とよばれる縅糸の紫を段々に色分けした装飾が採られ、遠方からの視認性を確保すべく、上半身を淡い卯の花色に構成している。この陣羽織を馬上で着用すれば、上半身の淡い色彩がくっきりと浮かび上がり、戦場での武将の存在を一層際立たせたであろう。一分の隙もなく整然と配された金属製の小札は遠距離からの狙撃に対する備えとして採り入れられたもの。西洋式銃砲による射程の伸展に対する防御を目的としたもので、戦闘様式の変化が防具の革新に結び付いた実例である。