平成八年静岡県登録
静岡県に居住し、久能山東照宮所蔵の家康の遺愛刀「ソハヤノツルギ」を幾度か鑑賞し、その本質に迫る作品を遺している磯部一貫斎光廣刀匠の作。光廣刀匠は大正四年の生まれ。江戸時代後期の浜部壽格、尾崎助隆に学んだ宮口一貫斎繁壽の系流の、一貫斎恒壽の門人。鎌倉時代の備前長光や兼光などを手本とした優雅な太刀、江戸時代前期の助廣や真改のような大互の目出来の刀など作域は幅広く、また三池典太の作と伝えるソハヤノツルギの製作においても遍く知られている。
この太刀は、元先の身幅が極端に広く猪首鋒に結び、重ねが厚く、幅の広い樋を掻いてはいるがどっしりとして重量があり、本歌に迫る造り込み。小板目鍛えの地鉄は詰み澄み、地底の細やかな地景に地沸が働いてしっとりとした質感。物打辺りの刃寄りに板目肌が現れて地刃の境目に細やかな景色を生み出している。刃先の構成線に沿った端正な直刃は三池典太の特質。匂口柔らか味があり、刃境の一部に淡い金線が走り、物打辺りは小模様の杢目肌に伴うほつれ、稲妻状の金線が鋭く光る。久能山東照宮の宝刀に迫らんとする光廣刀匠の気迫が伝わりくる出来となっている。