昭和四十八年高知県登録
特別保存刀剣鑑定書 （刀身）
保存刀装具鑑定書 （柄前：政美縁頭）
石黒政美は安永三年生まれ。名工石黒政常初代に学び、その総てを受け継いだのみならず、優れた感性によって構成された鷹や孔雀、鳳凰、牡丹などの花鳥図を、抜群の鏨力で極上質の赤銅魚子地に現出させ、「手が切れる(注①)」の表現に相応しい逸品の数々を遺した(注②)。
表題の拵は、石黒政美の極上の縁頭で装われた小さ刀拵。黒蝋色の鞘も色合いが美しく、柄は親粒の大きな白鮫着せに二疋牛図目貫が黒糸で固く巻き締められ、古金工の波図小鐔が掛けられている。石黒政美の縁頭は得意の鷹に雀図。色合い黒々とした赤銅地に蒔かれた細かな魚子は綺麗に揃って穏やかな輝きを呈し、雲間から現れた満月で芒の繁る草叢に露わとなった雀を狙い、今まさに急降下せんとする鷹の雄姿が、政美の卓越した彫技により、劇的かつ実態的に描かれている。鷹と雀の羽毛の彫は細密で、鷹のしなやかな筋肉にまで政美の意識が及んでいたことは明らか。懸命に逃げる雀の口から覗く舌には石黒得意の緋色銅の色絵が施されている。富岳帰雁図小柄も拵に調和している。
付帯する短刀は天正十二年紀の備前長舩清光の作。身幅広く重ね厚く、殆ど無反りの健全体配で、表裏に幅を異にする腰樋を掻いて緊張感のある姿。板目鍛えの地鉄は淡く乱れごころの映りが立つ。匂口の締まった中直刃は、刃境が細かに働き、刃中に小足、葉が入り、帽子は突き上げて長めに返る清光らしい一口。内外とも得難い優品である(注③)。注①…粒の揃った魚子地と、鏨の効いたシャープな彫口をこのように表現する。
注②…刀剣博物館編『花鳥絢爛刀装石黒派の世界』に詳しい。
注③…金着切羽は生ぶで、拵は元来清光の短刀のものであったが、旧所有者が近年ハバキを新規に製作した為、現状のハバキでは鞘口に入らない。