帰雁図鐔
銘 玉心斎正蔭作
正蔭は清麿の高弟鈴木正雄、後に水心子正次にも学んだ幕末の刀工(注)。
同時代の刀工では信家鐔を写したものが多く、本作のような金工のみが備える精巧で精密な高彫象嵌を駆使した絵画風の作品を遺している刀工は極めて少ない。
禅に通じる題を得たこの鐔は、精良な鋼を打返し風の耳に仕立て、地面には鍛えた鎚の痕跡を残して広大な空と芦原を表現している。棚引く雲、水の流れ、揺れる芦を金象嵌で添景とし、帰巣の雁を銀象嵌で彫り描いている。
注…一尺一分、互の目丁子出来の寸延短刀を銀座長州屋が所蔵