深い色合いの堅木柄に付された目貫は蝦蟇蛙。素銅地高彫の表面に細かな石目を加え、独特の肌模様からなる蝦蟇肌が写実表現されている。金と赤銅色絵でギョロリとした大きな眼には生気が感じられ、のっそりと歩きだしそうで、得も言われぬ諧謔味を感じさせる。鞘は黒漆塗薄板に七筋の刻みが施された薄板が十五枚巻かれ、その間は飴色がかった竹模様塗の薄板が貼られて透漆仕上げとされ、漆黒と赤味の洒落た景色となる。小柄は上品で明るい色合いの素銅地に松葉と蟻図で、高彫色絵で描かれた蟻が精巧で動感がある。つなぎから、元来収められていたのは八寸二分五厘程の短刀とみられ、身幅重ね尋常で、内反りがついた端正な姿。鞘は長一尺三寸五分六厘の見せ鞘。蝦蟇、蟻、松葉の取り合わせにどのような意味が込められているのだろうか。所持者の趣味の良さと拘りを感じさせて面白さも格別である