桜文散図鐔
銘 桂宗隣(花押) 壽八十歳作
霞に包まれた春の空を穏やかに染める桜花。我が国の自然観を背景に意匠したもので、良質の鉄地を浅い切り込みの木瓜形に造り込み、地面を鋤き込んで打ち返し耳風に変化をつけ、さらに石目地を施して朧な空気感を演出するとともに、浮雲のように鋤彫を加え、桜の紋所をくっきりと浮かび上がらせている。鉄色黒く、石目地によってしっとりとした味わいがあるだけでなく、実用の上での力強さも窺える。
桂宗隣は水戸の生まれ。横谷英精、桂永寿に学び、業成って江川利政と銘し、後に桂家を継承して久留米藩有馬家の工となった。