平成十一年東京都登録
特別保存刀剣鑑定書
伊藤博文の憲法草案に尽力し、後に枢密院顧問官として国務に携わった伊東巳代治(注①)は、大般若長光、包丁正宗など六百振りの名刀を所有した愛刀家として知られている。白鞘で伝えられたものであれば我が子に服を着せるように拵を製作し、細字で謹直な楷書体の文字で台帳と鞘書を記して刀蔵に保管、刀を深く愛おしんだ。
表題の太刀は、伊東巳代治遺愛の備前長舩助政の永享三年(注②)の作。僅かに区送りながら身幅重ねしっかりとして鎬筋が立ち、腰反りが付き先へ行って付しごころとなり小鋒に結んだ典雅な姿。地鉄は板目に杢を交えて肌目起ち、地景が太く入り、地沸が厚く付き、刃寄り深く澄んで僅かに地斑を交え、乱れ映りが立つ。互の目丁子の刃文は片落ち風の刃、腰開きごころの刃、むっくりと丸みのある刃を交え、所々に飛焼が掛かり、僅かに逆がかって華麗に変化する。焼刃は、柔らかく付いた小沸で刃縁が明るく、焼の谷に降り積もった沸が刃中に零れて足となり、刃境に細かな金線、砂流しが掛かり、刃中に粒子の細かな沸が充満して水色に澄む。帽子は焼を充分に残して沸付き、乱れ込んで小丸に返る。鎌倉後期の備前長光や景光を念頭に精鍛され、盛光や康光、家助らと比較しても遜色のない、見事な出来栄えとなっている。
伊東が付した拵は、亀甲文、七宝繋文、網代文を組み合わせた藍鮫皮包鞘に、慶応四年関屋暮雪が叙情豊かに彫り描いた雁図縁頭と雁図目貫で装った瀟洒な作。遺愛の程を伝えている。