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和月伸宏先生の人気漫画『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』の主人公緋村剣心は、飛天御剣流の達人で、電光石火の剣を振るい、幕末最強の刺客として鳴らし、またの名を「人斬り抜刀斎」という。殺生の数々を悔いた剣心は、維新後、剣を捨てて流浪の旅に出る。不殺の信念を込めた逆刃刀(さかばとう)と共に…。
表題の脇差拵は、鞘とつなぎの形状から、刃方が棟に、棟方が刃となる、即ち刃と棟が逆となった逆刃刀が収められる構造。そのまま抜き放っても相手を切ることは困難で、殺生とは真逆の思いが込められている。親粒の大きな白鮫皮着の柄には伊勢海老図目貫が巻き込まれ、渋い色合いの素銅地の縁も山道に伊勢海老図で、頭が裏白に橙、幣の正月飾図。鞘尻が反り、切先保護のために烏帽子形の鉄鐺が附された、総体が海老鞘風の造形。覆輪の施された鐔は素銅地高彫に赤銅の熨斗と金の宝珠図、裏が注連縄図で、長い齢を寿ぐ御祝差の風情。ところが、鯉口から指三本のところに栗形を備えて素早く抜き放つに適した構造とされている。腰元の五分刻も美観を高めると共に滑り止めとなり、武用への備えは充分。逆刃の脇差を収めた瀟洒な拵は如何なる武士が所持したものであろうか、稀有(注)の作である。