花籠図二所
銘 野村知徳(花押) 行年六十八歳
花籠に活けられた秋草を題とし、紋の高さを四ミリと極めて肉高く華やかに彫り出した、阿波金工野村知徳の二所。
粒の小さく綺麗に揃った赤銅魚子地を背景に、金無垢地をふっくらと打ち出してそれぞれの花が浮かび上がるように際端の腰を高く処理し、細やかな鏨を切り加えて花の特徴を鮮明に再現している。金地の上に施されている色金は赤銅、朧銀、青金で、いずれも置金の手法で焼き付けた、贅沢でしかも色金が映える表現。金哺の裏板も鑢目が鮮やかに輝くように仕立てとされている。
蜂須賀家お抱え金工野村家は、初代正時が後藤顕乗に学んで独立したことから阿波後藤と尊称されている。野村各代ともに技術が優れ、特に量感豊かに主題を彫り出す彫刻様式は後藤の技法を発展させたもので、野村家の特徴ともされている。この知徳の二所も、野村宗家の作風をそのまま写し出したように貫禄がある出来となっている(注)。
注…知徳は『刀装小道具講座』に「正道(宗家四代)か正光(同六代)の同人かと思われるがはっきりしない」と記されている。『金工事典』に「行年六十八歳野村知徳と銘した作がある」と記されているのが本作であろう。