昭和四十三年熊本県登録
特別保存刀剣鑑定書 (筑前 新々刀)
筑前国の美直(よしなお)は信國吉政七代目光昌の門人で、技量高く後に養子として迎えられている。寛政五年十一月七日、藩主黒田斉隆の御前にて先代光昌を向鎚に鍛刀した際、これをつぶさに見た黒田侯は美直の卓越した技術に感服して幕閣や有力な大名への献上品とすることとし、また宗像大社への奉納太刀を打たせている(注①)。美直は鍛刀のみならず刀身彫刻にも長じ、寛政十年には滝不動と雲龍の彫物がある正宗写しの刀を打ち(注②)、さらに鐔も手掛けている。
この刀は、身幅重ね尋常な中鋒の洗練味ある造り込みで、心地よい重量感を保つ一振。板目に杢を交えた地鉄は細かな地景が入って緻密に肌起ち、粒立った地沸が厚く付く。刃区下の焼き込みから始まる浅い湾れに互の目を配した刃文は、物打付近で一段と焼高くなって鎬筋を越え、棟焼に連なって力強く奔放に変化し、銀砂のような沸が厚く付いて刃縁明るく、沸の一部は零れて地を焼き、相州正宗に見るような雪の叢消えの如き態となる。刃中には沸足が入り、葉が浮かび、沸筋流れ、特に物打辺りの沸の景観が激しさを増し、帽子は穏やかに乱れ込んで一枚風となって返り、棟を長く焼き下げる。保存の優れた茎に鑚強く刻された銘字は鑚枕が立つ。輝く沸に包まれ、名物池田正宗(注③)を想起させる覇気横溢の一刀となっている。
埋忠重義の時雨亭図鐔を写した美直自作の鐔を掛け、腰印籠刻黒漆塗にして総体を金箔押しの唐革塗鞘とした拵が付されている。