太刀  銘 昭次作 / 昭和丗三年二月日

Tachi : Singed. AKITSUGU saku / Showa 33 nen 2 gatsujitsu

天田昭次 人間国宝
昭和三十三年三十歳作品
新潟県豊浦市

刃長 二尺三寸
反り 七分強
元幅 一寸二厘
先幅 六分九厘半
棟重ね 二分三厘
鎬重ね 二分五厘

金着二重ハバキ 白鞘入

『天田昭次作品集』所載

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Amada AKITSUGU
Living National Treasure
Lived in Toyoura city,Nigata prefecture
Forged in 1958, Work at his 30 years old

Hacho (Edge length) : 69.6cm
Sori (Curvature) : Approx.2.13cm
Moto-haba(Width at Ha-machi) : Approx.3.09cm
Saki-haba (Width at Kissaki) : Approx.2.11cm
Kasane (Thickness) : Approx.0.76cm

Gold foil double Habaki
Wooden case (Shirasaya)

Published in "Amada Akitsugu sakuhin-shu"

Hozon
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 理想の鉄を求めて製鉄のための小型炉まで製作した天田昭次刀匠。本名は誠一といい、山本五十六元帥の佩刀を鍛えた(注①)名工天田貞吉の子で、昭和二年八月四日の生まれ。父没後は十三歳にして栗原彦三郎の日本刀鍛錬伝習所に入門、戦中戦後の刀工不遇時代においても、「砂鉄を集め、鉄を作り、刀にする」の一念に徹し、昭和二十九年に作刀承認を受けている。三十年の第一回「作刀技術発表会」では優秀賞を受賞(注②)、三十二年、三十三年と優秀賞を連続受賞の後は、鎌倉、南北朝時代の名刀の再現に必要な鉄作りに専念すべく十年の雌伏の時を過ごしている。この間、病とも闘い、心技両面の辛苦を強いられたが、昭和四十三年に復活、以降三度の正宗賞の受賞を経て平成九年に重要無形文化財保持者認定の栄誉に浴している。
 この太刀は、昭次刀匠が人生を賭けて極めようと一途に刀造りに突き進んでいた頃の作。鳥居反りに猪首風小鋒とされた刀身は洗練味があり美しい。小杢を交えた小板目鍛えの地鉄は、全面に細やかな地沸が付いて澄明に冴え亘り、加えて地肌が活力に溢れている。上品な直刃の刃文は鎌倉期の京物にも似て品位高く、明るい匂が充満して冴え冴えとした刃中には鋭い小足が無数に射し、帽子も品よく小丸に返る。この時すでに直刃は完成の域に到達していたとの感さえ抱かせる出来栄えをみせており、殊に地鉄の完成度(注③)は現代の最高水準を示し、新作刀中にこれに比肩するものをいまだ見ない。

注①…昭和十八年ブーゲンビル島上空で撃墜された折には、この貞吉刀を左手に握って絶命。鞘に二発、柄に一発被弾の跡があった。
注②…この時は出品九十三点、特賞二点、優秀賞八点。
注③…この頃は玉鋼を持っておらず、古い鉄床(かなどこ)等を卸して鍛えていた(『鉄と日本刀』より)。