平成六年東京都登録
邦松刀匠は本名三宅輝義。刀の美に魅せられた三宅氏は国宝、重文、重美の名刀の数々を収集。さらに廣木弘邦刀匠を師に鍛刀技術を修め、古名刀の再現に情熱を傾けた愛刀家である。
この刀は、上杉景勝御手触三十五腰の一つ水神切兼光を範に精鍛された一振で、真の棟に、身幅広く重ね厚く、反り強く伸びやかで美しい姿。小板目鍛えの地鉄は棟寄りに柾、中程に杢目を配して詰み澄み、均一に付いた地沸を分けるように地景が入って層状に地肌が浮かび上がり、古刀の如く刃寄りが深く澄み、杢肌の働きによるものであろう、中程から棟側に備前古作に特有の乱映りが鮮明に立ち現れる。
彫刻は苔口仙琇師で、彫際の線が立って刀身に清く浮かび上がり、手際の見事さは流石。互の目丁子の刃文は片落風の刃、小丁子の連なる刃を交え、新雪のような小沸で刃縁明るく、足と葉が盛んに入る。刃中も沸匂が充満して焼刃蒼く冴え、抜群の美観を呈している。帽子は表が浅く乱れ込み、裏は弛みごころに小丸に返る。逆筋違鑢が丁寧に掛けられた茎に太鑚で力強く刻された銘字が、棟には彫師苔口仙琇師の繊細緻密な刻銘が鮮明。選別した極上の鋼を打ち鍛えて不純物の一切が叩き出されたためであろう、地刃に透明感のある出色の出来栄え。卓抜な技術と心意気で打ち上げられた平成の水神切である。