『新刀集 刃文と銘字』所載
平成九年東京都登録
特別保存刀剣鑑定書 (肥前)
豊後國行平の末裔と称した本行は、承応二年豊後国高田の産。初銘を行春と切り、延宝頃に肥前に移住して唐津藩に仕え、河内大掾を受領した。元禄頃には江戸に出(注①)て鎌倉の伊勢大掾綱廣と交わり相州伝の鍛法を修め、さらに本阿弥家を訪ねて自作を問い、技量を認められて「本」の字を授かり、本行と改銘。晩年「本」の字をこぼれ松葉の如く切(注②)ったことから「松葉本行」の異名で呼ばれている。
「七十余歳打」と刻されたこの刀は、享保十年代の老練の一刀。身幅広く重ねしっかりとして棒樋が掻き通され、反り高く中鋒の垢ぬけた姿。綾杉鍛えの地鉄は鍛着面が密に詰んで地沸厚く付き、地景が太く大きく働いて脈動する地肌が浮かび上がる変化に満ちた肌合。直刃調の刃文は小沸が付いて匂口明るく、鍛え目に感応して焼刃がうねり、金線が断続的に走って自然な起伏を成し、地刃の働き合いが絶妙。焼深い帽子にも鍛え肌が現れ、浅く乱れて小丸に返る。茎は手置き優れ、「本」の字を松葉に似せた銘が、鑚使いも軽やかに飄々と刻されて味わい深い。
青貝を微塵に散らした上に淡紫灰色の貝殻を塗り込めた鞘の拵は、江戸人の粋を今に伝えて貴重である。